三年に進級したと同時に会長方筆頭に就任した哉琉は、同時期に書記方筆頭、そして補佐委員会委員長に着いたこの男が、最初から好きではなかった。

他の人間と異なり自分の容姿に目もくれず、どれだけ仮面を被って可愛げのある生徒を装っても、いつもレンズの向こうから冷めた目を向ける男。

何事かを企んでいるように口角を持ち上げて、切れる頭で弁舌を奮う。

穂積に近付こうとする身の程知らずを秘密裏に潰すたび、何度彼に追い詰められたか分からない。

どうにか決定打を掴ませないことで逃げ回っていたが、それでも逸見によって抱かされた苦い思いは一度や二度ではない。

そうだ。

逸見は今回もまた、決定的な証拠を持ってはいないはず。

何せ三人の暴行を行った生徒は、万が一のことを考えて捨て駒。

会長方の下っ端もいいところな連中だ。

逸見はもちろん、その三人の生徒とやらも、はっきりと顔を覚えているはずがない。

緊張で走る心臓を宥めながら、哉琉はぐっと胸を張って、自分よりも随分高い位置にある男を睨み付けた。

だが。

「二年の長崎」
「っ!?」
「柴、庭瀬、一年の相内、吉本」
「だ、誰それ……」
「自分のところの人間も知らないか?」
「生憎、穂積様の人気は凄いんだ。会長方は会計方よりよっぽど人数が多いんだよ」
「その通りだな。知らないのならそれで構わない。だが、この五人は引き渡してもらおうか。お前の敬愛する穂積会長の命令に、逆らったかもしれない生徒たちだ。当然、協力は惜しまないだろう?」

目の前が怒りで燃えそうだ。

実行犯として使った人間全員の名前を言われて、カッと頭に血が上る。

最初から、逸見はすべて知っていたのだ。

知っていて、わざとカードを小出しにして来た。

なんて性質の悪いっ!

喉元まで出掛かった罵詈雑言をどうにか腹に押し戻し、深く深く息を吸った。

ここで気を動転させるな。

逸見の性質の悪さなど今更だ、さして動揺することではない。

そうだ、そうだ。

何度も何度も言い聞かせる。

対面ではこちらの様子を面白そうに観察している男が、哉琉の次の反応を待っていた。

侮るな、そう簡単に落せると思うなよ。

「それは出来ないよ、逸見くん」

一度だけぎゅっと瞼を下ろした後、少年は逸見の視線を真っ向から受け止めて、言い切った。

余裕が漂っていた委員長の眉が、僅かに動く。

「理由は?」
「もしそれが本当なら、これは一大事だ。僕は会長方筆頭として、その五人に厳重な処分を下さなきゃならない。でも、もしそれが誤認だったら?それだって一大事でしょう?まずは僕が、ことの真偽を調査する。逸見くんに引き渡すのは、それからだよ」
「問題は補佐委員会全体の話だ。会長方の内々で済ませるべきことじゃない。引き渡せ」
「もちろん。僕の調査結果がどうであれ、委員会の議題にはあげるつもりだ。でもその前に、会長方筆頭としての責任をまっとうさせて欲しいんだ」

逸見の顔が、みるみる険しさを増して行く。

真面目ぶった顔の裏側で、それを心地よく見る。




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