補佐委員会。
SIDE:霜月
「え?」
問われた瞬間、頬が強張るのが分かった。
ぎりぎりのところで表出することを抑え、平静を装えたのは奇跡に近い。
向かい合う男は、そんなこちらの姿を理知の輝きが灯る眼で、探るように見つめている。
疑念の色を汲み取ってしまうのは、図星を指されたせいなのだろうか。
少年は愛らしい面を必死に動かし、困惑の表情を浮かべた。
「会長方の人が?そんな……僕がきちんと見張っていたはずだ」
「二年の佐竹、三年の松戸と飯村が、自分たちを襲った人間の中に、会長方がいたと主張している。それは間違い、ということか?」
重ねての質問に、哉琉は自分の部下を胸中のみで口汚く罵った。
先の七夕祭りで、転校生に制裁を加えることを決めたのは、他でもない哉琉である。
生徒会補佐委員会副会長にして、会長方筆頭の自分が、穂積にまとわりつく例の転校生を潰さずして、誰が潰すというのか。
直接手を下すなどという真似は勿論却下で、前もって目をつけた人間に、長谷川を襲わせようと思ったのに。
大人しく言うことを聞かないから、痛めつけて薬まで使わねばならなかった。
だが、比較的学院の事情に疎いと思っていた三人が、会長方の人間を知っていたとは誤算だ。
ミルクティブラウンに染めたさらさらの髪を、少し揺らしながら、少年は対面の委員長―――逸見を上目で見上げた。
「もちろん。穂積様から勧告だって出ていたんだから、僕らが命令に背けるわけないよ。逸見くんだって知ってるでしょ?……ね?」
自分の容姿をよく理解した、必殺技。
男女問わず万人に通用する、庇護欲を誘うアングルは、しかしこの男には効かなかった。
策略家を思わせる意地の悪い笑みを浮かべた逸見は、まるで小馬鹿にしたような目で口を開いた。
「そうか、ならお前の監督不届きだな」
「なっ、なんでそういうことになるのっ!?」
「会長方筆頭のくせに、自分の部下の状況も把握出来ていないのだから、当然だろう。直接関与していなかったとは言え、本来生徒会のサポートをすべき補佐委員会が、七夕祭りで生徒会の足を引っ張ったのは事実だ。霜月、不注意だったな。お前のミスだ」
「やめてよっ!だ、だいたい、その怪我をした彼らの証言が正しいかどうかなんて、分からないじゃないかっ!!」
嵌められた。
逸見は自分が今回の一件について、知らぬ存ぜぬあり得ぬを貫き通すと予想していたのだ。
だからこそ、敢えて哉琉本人に直接攻撃を仕掛けるのではなく、監督不届きという形に出たに違いない。
油断ならないことに、わざわざ哉琉に「あり得ない」と言わせて。
唇を噛み締めるのは、傷になるので絶対にやりたくなかったけれど、代わりに小さな拳を震えるほど握り締めた。
焦るな。
奴のペースに乗せられてはいけない。
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