サマーキャンプ。




「すでに皆さんご存知だとは思いますが、教室の前に期末テストの順位が発表されています。答案の返却は今日から三日間行われますので、反省する人は反省して、よかった人は油断せずに各自夏季休暇を楽しんで下さい」

自分の順位はクラスの人間にとって凄まじい衝撃だったようだと、突き刺さる視線を意識から締め出しつつ少年は思った。

少し耳を澄ませば、「カンニングでもしたんじゃない」「信じらんねぇ」だとか。

それはもう、今まで光のことを侮っていたのがよく分かる発言が飛び交っている。

カンニングなんて真似、誰がするかと溜め息が漏れた。

自分の学力が優れているだなんて、今まで知らなかった。

教育機関に所属したことのない光は、これまで定期試験と呼ばれるものや模試なども受けたことがないのだ。

だが、進学校として名高い碌鳴学院で、一位なんていう順位を取ってしまえば否定することもない。

必死で勉強に取り組んだ甲斐があった。

木崎に褒められたいが故、という理由はこの年齢にもなると聊か恥ずかしいけれど。

試験に関する事務的な内容を話す須藤をぼんやりと視界に映していたら、隣の席から声がかかった。

「おい、光」
「ん、なに?」
「数学で勝負な。答案返却されたら見せろよ」

楽しそうにも見える挑戦的な瞳で言われて、にっと口角が上がる。

「受けて立ちましょう。学年首位舐めんな」
「いきなり態度デカくなってんじゃねぇよっ」
「え、なに?学年四位の人」
「殴りてぇっっ!」

机に突っ伏して喚く不良。

本当に、よくもこれで注意が飛んで来ないものだと感心する。

以前のようにふざけ合える時間が、そこにはあった。

でも。

つい先日までの余所余所しさが、完全になくなったわけではない。

お互いが、お互いを意識しているのだと、光は知っていた。

あの日抱かれた疑念と追求を、未だ身内で燻らせている仁志。

『友人』に対して偽りの己を演じ続けている罪悪感を、明確に認めた自分。

その互いの引っかかりを、決して刺激しないように。

見えない隙間を隔てて、二人は表面上の『平穏』を取り戻しているだけだ。

まだ、時期ではないと。

ぶつかり合うまでの、執行猶予であると。

仁志も気付いているはずだった。

「えー、テストの話はここまでなので、皆さんいい加減静かにして下さい。そろそろ名指しで怒りますよ?」

にこり、と擬音がつきそうなウソ臭い笑顔を担任が見せたのは、その時だった。

一瞬にして騒がしかった教室が静まり返ったが、幾人かの生徒が頬を染めたのを、果たして須藤は気付いているのかいないのか。

いや、間違いなく気付いているだろう。

口元が何だか嫌な笑みを刻んでいるように見えなくもない。




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