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今まで彼がこんな表情を見せたことは勿論、自分から光に触れて来るなどなかったせいで、言葉を失う。
中々酷いことを言われて来たはずなのに、須藤が善良な教師に見えてしまいそうだ。
「編入試験の結果は聞いていたけど、まさか一位になるとは思わなかった」
「ど、うも」
よしよしとあやす様に撫でて来る手に、既知感。
木崎のそれが、被った。
幼い頃は何か一つでも上手く出来たとき、保護者はよく頭を撫でてくれた。
温かくて大きな掌がとても嬉しくて、褒めてもらおうと懸命に努力したあの頃。
こちらを見下ろす須藤の笑顔にぼんやりとしている内に、彼はさっさと身を翻した。
離れて行った手を僅かに寂しく思ったのは、懐かしい記憶が引き寄せた感傷。
須藤は遠巻きになっている生徒たちに、クラスに戻るよう声をかけてから、教室の中へと入って行く。
「おい、光」
「え、あ、なに?」
「なに?じゃねぇよ。俺らも早く入るぞ、下手すりゃ遅刻にされる」
後頭部を押され、未だにぼぅっとする気持ちを正すように、光も仁志に続いて扉を潜った。
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