日常。
今日は一段と騒がしい。
そう感じたのは、久方ぶりの仁志との朝食を済ませ、登校した教室へ続く東棟の廊下であった。
学院一の嫌われ者と言っても過言ではない光と、生徒会で書記の任に着くほど人気の仁志が連れ立っていれば、誹謗やら中傷やら歓声やら感嘆やら、凄まじい音の波が襲ってくるのは当然なのだが。
平時よりもずっとレベルの高い騒音に、少年は首を内心で傾げた。
「なんか、いつもより五月蝿くない?」
近頃はあまり一緒にいることの少なかった仁志と、また一緒に登校したからだろうか、と見当をつけてみるが、どうも声の種類が違うように思える。
光への罵声で騒々しいと言うよりも、ひそひそと交わされる陰口のようなものが、重なって生じた騒がしさなのだ。
昨日の出来事から、一先ずは関係が修復されたことに嬉しさを覚えつつ、傍らの存在に問いかけた。
「そうか?」
どうやら違和感を持ったのは光だけらしい。
あまり外野の音を耳に入れていなかったのか、仁志は今更ながらに周囲の様子を把握しようと、鋭い瞳を方々に向けた。
お陰で、たまたま彼の視線の先にいたらしい生徒の狂喜の叫びが追加されて、廊下は更に五月蝿くなった。
小声が密集したことで出来上がった空気よりも、この歓声の方が幾分マシだな、と思いながら2−Aまで歩いて来たとき、光は足を止めた。
いつもならば誰も見向きもしない、教室の前にある掲示板。
そこに今日は、人だかりが出来ているではないか。
珍しい事態に驚いていれば、自分よりも高い位置から納得の声が降ってきた。
「あー、なるほどな。原因はコレだ、コレ」
「え?なんだよ」
見てみろ、と指で示された掲示物を、怪訝な面持ちで生徒たちの隙間から覗き見る。
「あ」
「期末の試験結果だな……っんだよ、前回と変わってねぇのか」
不満そうに零された台詞だったが、少年は自分の視界に飛び込んできた内容に、ぎょっと目を剥いた。
思わず何処から見ても不良にしか思えない男を凝視してしまう。
「仁志が四位っ!?」
「なんだよ……文句あんのか?」
「だって、めちゃめちゃ授業サボってたじゃんっ!出席してても寝てるだけだし、仁志が真面目に勉強してたとこ見たことないんだけど」
「高校の授業なんて教科書前日に見りゃ出来んだろ、悪ぃな天才で」
「カンニング?」
「するかアホっ!」
スパンッと頭を叩かれる。
しっかり固定はしてあるも、やはり鬘が心配なので、出来れば頭は勘弁願いたいところだが、如何せん抗議は出来ない。
「で、そういうお前はどうなんだよ。シルバーカードの秀才くんは……はっ!?」
「悪ぃな秀才で」
相手の言葉を真似て返してやったが、当の仁志から反応はノーリターン。
いつも打てば響き過ぎな彼にはあり得ない事態に、光は怪訝そうに眉を寄せて。
「てめぇら邪魔だっ!全員散れっ!!」
突如発せられた仁志の大声に、目を丸くした。
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