◇
SIDE:仁志
この視界に映るもの。
白いキャンバス。
と。
錯綜する青い軌跡。
滑らかな皮膚は白魚のように艶めいて、目にすることさえ憚られるほどに神秘的だ。
今にも手を伸ばしたくなる欲求が、四肢を駆け巡る。
潤いを帯びて見える背中に、思わず息が詰まりそう。
なのに。
台無しだった。
この世の純白を汚すが如く、凶悪な傷の道が罪深い存在を高らかに主張する。
青と紫の境界色が、濃淡を付けながら格子を描き、明確な暴力によって負ったものであることを知らしめた。
ドクン。
目の前から、色が抜け落ちる。
恐ろしいほどの白と、青、以外。
誰の罪?
誰のせい?
開く限りに大きくされた己の眼は、べたりと焼きついて離れることを忘れたように注視し続ける。
綾瀬の、背中を。
「仁志……くん……」
途切れがちに呟かれた名前に、仁志は周囲の色彩を一挙に取り戻した。
途端、現実が怒濤の勢いで押し寄せて来て、喉が引き攣れた。
硬直する二つの人影。
驚愕に支配された穂積が、慌てた様子で副会長の背中をシャツで覆う。
当の綾瀬は―――――
「あ……あ、俺……」
黙れ。
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
五月蝿い鼓動!
喋るな罪人!
何を言うのか。
何を言う権利があるのか。
笑わせるな、あまりの愚かしさに反吐が出る。
無意識に手が伸びた先は首筋で、指先に伝わる血の脈動が焦燥を加速させた。
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