SIDE:仁志

この視界に映るもの。

白いキャンバス。

と。

錯綜する青い軌跡。

滑らかな皮膚は白魚のように艶めいて、目にすることさえ憚られるほどに神秘的だ。

今にも手を伸ばしたくなる欲求が、四肢を駆け巡る。

潤いを帯びて見える背中に、思わず息が詰まりそう。

なのに。

台無しだった。

この世の純白を汚すが如く、凶悪な傷の道が罪深い存在を高らかに主張する。

青と紫の境界色が、濃淡を付けながら格子を描き、明確な暴力によって負ったものであることを知らしめた。

ドクン。

目の前から、色が抜け落ちる。

恐ろしいほどの白と、青、以外。

誰の罪?

誰のせい?

開く限りに大きくされた己の眼は、べたりと焼きついて離れることを忘れたように注視し続ける。

綾瀬の、背中を。

「仁志……くん……」

途切れがちに呟かれた名前に、仁志は周囲の色彩を一挙に取り戻した。

途端、現実が怒濤の勢いで押し寄せて来て、喉が引き攣れた。

硬直する二つの人影。

驚愕に支配された穂積が、慌てた様子で副会長の背中をシャツで覆う。

当の綾瀬は―――――

「あ……あ、俺……」

黙れ。

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。

五月蝿い鼓動!

喋るな罪人!

何を言うのか。

何を言う権利があるのか。

笑わせるな、あまりの愚かしさに反吐が出る。

無意識に手が伸びた先は首筋で、指先に伝わる血の脈動が焦燥を加速させた。




- 161 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -