SIDE:穂積

「……っ」
「……思った通りか。手当てくらいしたらどうだ」

眼前に提示された光景に、瞬間的に眉を顰めた穂積は、すぐに苦い表情を消し去ると、心底呆れたように呟いた。

そうして、覆いかぶさっていた綾瀬から、すっと体を離す。

あまりに強情な綾瀬の心情に、気付いていたが仕方ない。

どうせこんなことかとは予想していたのだから、今更だ。

「手荒な真似をして悪かったな」
「……ううん、いい。穂積が何を言いたいか……分かってるから」

腕のネクタイを解いてやりながら謝罪を告げれば、どこか気が抜けたような声が、優しく応えた。

無体を働いていたときは、あれほど絶叫していたと言うに、隠すものが暴かれてしまえば意味もない。

予想以上に硬く結んでしまった拘束を解しながら、穂積は救急箱をどこにしまったかと考える。

嫌がる相手を無理やりに屈させた罪悪感は、当然ない。

隠す綾瀬に抱いた小さな怒りも、痛々しい背中を見れば収束された。

「穂積、このこと……」
「誰にも言わない。仁志にも」
「ありがとう……ごめんね」

ポツリと落とされた言葉に、穂積は綾瀬の背後でひっそりと真剣な表情でいた。

「綾瀬、お前……仁志のこと、本気で……」

続く先は何であったのだろう。

それはもう、穂積だけしか分からない。

何故なら、彼の口からその先が発せられることはなかったのである。

ガチャリと開いた、生徒会室の扉。

弾かれたように、二人揃って振り返ったそこに立っていたのは。

鋭い双眸を限界まで見開いて、青褪めた顔で綾瀬の背中を凝視する。

仁志であった。




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