どうせそう遠くない内に、今のような事態を迎えていたはずだ。

この傲慢で自信家で時々我侭な幼馴染が。

この優しくて聡くて妙なところで真面目な幼馴染が。

見逃してくれるはずがない。

でも。

「もう一度言う、脱げ」
「絶対にイヤ。いくら君の命令でもね」

極至近距離でぶつかった双方の眼光は、平時の友好ムードが偽りなのではないかと錯覚させるほど、硬質で鋭い。

ぎりぎりと僅かな隙間を締め上げて、ともすれば破裂しそうだ。

長かったのか、それとも短かったのか。

長針が文字盤の上を何度か舐めた後、膠着状態を破ったのはやはり穂積だった。

「なら仕方ない」

ふっと不敵に口角を持ち上げるや、何をするつもりかと警戒する綾瀬の両手首を、捕まえたのである。

「なっ!ちょっと、穂積っ!?」
「五月蝿い、黙れ」

一体どういうつもりだと慌てふためく麗人に、感情の見えぬ短い返し。

華奢な体の後ろで細い手首を大きな掌一つで拘束し、綾瀬のシャツの襟からしゅるりとネクタイを引き抜く。

容赦のない力で後ろ手に縛られた瞬間、綾瀬は穂積の意図を悟った。

「嫌だっ!嫌だって、やめて穂積っ!!」
「……」

やたらめったら身体を捻り、背後に回った男から逃れようとする。

だが圧倒的な実力差とでも言おうか。

一つに括られた腕を引っ張られ、またしても逃走は未遂に終わる。

どころか、会長のデスクに突き飛ばされたせいで、たおやかな美人は勢いよく重厚な造りのそれにぶつかった。

「穂積っ、お願いだからっ……っ!」

振り返ろうとした矢先、肩甲骨の狭間を強く押されて、上半身が机にビタッと平伏す羽目になる。

後ろに立つ男に腰を突き出す体勢は、この碌鳴と言う場所でなくとも、不穏で妖しい気配が漂うものだ。

けれど、綾瀬の全身から放たれる強烈な抗いの叫びは、もっとずっと、別のことを主張していた。

突然の暴挙に乗り出してからというのも、一切声を出さずにいた男は、自身の身体で組み敷いた体躯を抑え付けると、デスクと相手との間に両手をねじ込み、器用にも一つ一つボタンを外して行く。

「ヤダ、嫌だって……止めてっ!やめてよっ……」

厭きることなく繰り返す懇願の台詞は、最早涙声に近かった。

それなのに、無情。

最後の一つが外れ、穂積の長い指が綾瀬のシャツから白く滑らかな双肩を露にする。

伏せられた体では重力に従って布が落ちることはなかったけれど、

襟首をぐっと後ろに引かれた瞬間、最後の砦が崩された。

「駄目っっ!!」

その喉から絞り出された悲痛な絶叫が。

大窓から差し込む強い日差しに照らされた、生徒会室に響き、貫いた。

引き剥がされた、バリケード。

現れたのは、青紫の歪な格子が走る、白い白い、背中だった。




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