痣。




SIDE:生徒会

勢いよく閉じた生徒会室の扉に向かって、暫くの間やけに明るい笑い声を立てていた綾瀬は、ようやく上戸が収まったらしく、ふぅと息を吐いて自分のデスクに着こうとした。

それに待ったをかけたのは、会長の声である。

「綾瀬」
「なに?どうしたの、穂積」

先刻までは転入生に対する怒りで不機嫌に歪んでいた面は、いつの間にか真顔に戻っていて。

急に真剣な瞳をする男に綾瀬は内心だけで、びくりと心を跳ねさせた。

目を逸らしたくとも、どうしたって出来るわけもなく。

しばし無言で見つめあう時間。

探る、と言うよりも、すでに何もかもをも見切り看破し終えた黒曜石の強さ。

どれほど巧妙に隠したところで、無駄だと言い切るように、穂積は言った。

「脱げ」
「え……」

優美な面が、僅かに引きつったのを見逃してもらえるはずもない。

確信を持って響いた穂積のそれに、抱く思いは「あぁ、やっぱり」。

この男の前で抵抗は無意味と知っていたけれど、しかし綾瀬とて簡単に屈するわけにはいかなった。

「きゃー!穂積ってば何言ってんのっ!まだ、ひ・る・ま」
「綾瀬」
「あはははっ、冗談だって。そんな怖い顔しないでよ。ただでさえ愛想ないんだ……っと、間違えた」
「綾瀬っ」

茶化す副会長に苛立ったのだろう。

名を呼ぶ声が荒くなっている。

だが、彼の真意に気付いていながらも、素知らぬふりを続けるしか道はなかった。

「もう、気ぃ短いなぁ。今コーヒーでも淹れてあげるから、少しは落ち着いて……」

どきどきと不穏な鼓動を抱えたまま、綾瀬は逃げるように給湯室につま先を向けた。

のに。

「いい加減にしろ」

ぐっと二の腕を掴まれて、逃走は失敗した。

いつの間に席を立ったんだと、恨めしそうに睨み上げる。

頭一つ分高い位置から注がれる視線は、綾瀬の滅多に見せることない抗議をしっかりと受け止めていた。

揺らがぬ意思を備える双眸に、綾瀬の喉がこくりと上下する。

窮地に立たされた心境から、冷や汗だって出てきそうだ。

しまったなぁ。

迂闊に二人きりになどならなければよかったと、後悔しても後の祭り。

長谷川をもう少しこの場に留めておけば、この状況は回避出来たのだろうか。

答えは、否。




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