デザインプリントのTシャツを着こなした人影は、昨日の怒りが嘘のように、ただぼんやりと中空を眺めていた。

「仁志」
「っ、あ……光か」

呼びかけた瞬間、まるで弾かれるように我に返った男は、こちらの姿を認識した途端、強張っていた体から力を抜いた。

心底安心したような、期待外れのような、複雑な笑みらしきものが、シャープな面に浮かぶ。

「なにやってんだ、こんなとこで」
「昨日のことで、会長たちにお礼言いに行ってた」
「そう、か……」

会話が途切れる。

仁志の座るベンチまでは、三歩ほどの距離。

以前ならば簡単に埋められた隙間を、光はどうしていいのか分からず立ち尽くす。

仁志のぎこちない態度を考えたのもあるが、何より自分が彼を欺いている罪悪感を、自覚してしまったのが不味かった。

影と共に地面に縫いとめられて、近付くことが出来ずにいる。

彼と友達になりたいと願うのに、真実を言うことは出来ない。

まだ、自分は友達を作ることが、出来ない。

自然と下がった視線を、はっと正したのは。

鼓膜を打った足音のせいだった。

「あの、仁志……」

三歩を埋めたのは、彼。

眼前でこちらを見下ろす切れ長の瞳に、四肢が引きつりそうだ。

何か言わなければ。

途切れた台詞の不自然に、鼓動が早まる。

「その、昨日は助けてくれて……」
「悪かった」
「え?」

すっと下がった金髪頭。

不良のようなビジュアルには見合わぬ、洗練された所作の意味がまるで分からない。

戸惑う少年に、仁志はすぐに答えを口にした。

「昨日は、悪かった。お前を見たら、頭ん中が真っ赤になっちまって……嫌なもん見せたな」
「何言ってんだよ!仁志が謝ることなんか、何にもないっ」
「お前を助けるつもりが暴走したんだ。マジで、迷惑かけて悪かった」
「仁志……」

慌てて紡いだ光の言葉を、仁志はきっぱりとした口調で退ける。

そこに含まれる猛省の意思は、どんな慰めも赦しも必要とはしていないと気付けば、それ以上なにを言うことがあろうか。

あぁ、やっぱり彼は、いつだって真っ直ぐなんだ。




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