生徒会最強。




「今回は、本当にご迷惑をおかけしました」

深く頭を下げた少年の黒い頭に、対面から投げられたのは、この上なく不機嫌な声だった。

「いや、俺たちも注意を欠いていた。お前が気にすることじゃない」
「はぁ……」

その割りには、紡ぐ言葉と音が一致していませんけど。

突っ込みは胸中だけに止めておく。

「生徒にはもう一度勧告を出しておくつもりだが、保身のためにも油断するなよ」
「あ、はい」
「……体調はもういいのか?」
「お蔭様で」

答えた瞬間、それまで黙っていた綾瀬が盛大に噴出した。

ぎょっと身を竦ませる光とは反対に、生徒会室の大窓を背にデスクにつく穂積の、ただでさえ不機嫌な顔は更に凶悪さを増した。

「綾瀬……」
「だ、ダメだ……もう堪えらんないっ……!はっ、あーお腹痛いっっ!」

美貌の生徒会長のコメカミに、ぴくぴくと浮かんだ血管も何のその。

細い体を二つに折って、呼吸困難さながら笑い転げる副会長を前にした転校生は、助けを求めて穂積に目を向けた。

「……こいつの持病だ、奇病だ。感染の心配はないから安心しろ」
「奇病って」

目をそらしながらなされた説明に、信憑性は皆無である。

怪訝そうに探る視線を送り続けるも、徹底した無視に回答は得られない。

若干ブレる声でこちらの疑問に答えをくれたのは、発作のピークを過ぎた綾瀬だった。

「看病するために長谷川くんの部屋に行ったのに、自分がベッドで寝てたら世話ないよねぇ……しかも、あの穂積がっ!」
「……」
「体調は大丈夫なのかって、悪化してたら穂積のせいだしっ!あははははっ!」
「……少し黙れ」

溢れんばかりの怒りが込められた穂積の低音を聞き流す綾瀬が、もしかしなくとも生徒会最強なのかもしれない。

光は初めて向かい合った、たおやかな美人のやはり容姿を裏切るリアクションに、苦笑を浮かべた。

思い出されるのは数時間前のことである。

日頃の疲れのせいなのか、ぐっすりと睡眠を堪能する穂積を起こしたのは、光だった。

そっとしておいてやりたい気持ちもあったが、時計の針が正午を示してしまえば、流石に放置しておくわけにもいかず。

肩を叩いて目覚めを促せば、薄っすら開いた黒曜石の眼が、しっかりと変装をした少年の姿を認めた瞬間、ばちっと見開かれた。

自分がどこで寝ていたのかすぐに気付くや、しばし呆然となる。

病人の面倒を見るつもりが、まったくの逆になってしまったのだから、当然だ。

あぁ、これはショックを受けているに違いない。

と、敏感に察した光の前で、彼は「悪かった」と一言を呟くや、猛然と部屋を出て行ったのであった。

「ね、ね、長谷川くん」
「なんですか?」
「穂積、もしかして寝惚けてたんじゃない?」

面白そうに問われて、心臓が止まりかけた。

ビクリと過剰反応を起こしかねない衝動をどうにかやり過ごし、眼鏡の下でさり気なく穂積を窺った。




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