幹部になると穂積の命令に従順なふりをして、裏では過激な制裁を行い、オマケにそう簡単には尻尾を掴ませない狡猾さを有している。

敬愛する相手からの忠告は、会長方を余計に煽るだけと思えば出来なかった。

厳しい顔つきのままチラと相手に目をやれば、口元に刻まれた何事かを企む微笑が見えた。

「逸見……こんなときに楽しそうな顔しないで」
「そう見えるか?」
「すっごく」

力を込めて言ってやる。

敵が手強ければ手強いほど、卑怯であれば卑怯であるほど。

逸見の頭は楽しく策略を巡らせるのだと、気付かないほど浅い仲ではない。

「会長方となると、霜月が関わっていないはずがない。アイツは卒業前に何とかしたかったからな。丁度いい」
「……まだ分からないんだから、思うのは心の中だけでにしてね。取り合えず、会長方でどの程度ドラッグが回っているのか、出所はどこなのにか、注意してみる必要がある……それと、長谷川くんも」
「長谷川?」

続けた言葉に、意外そうな復唱。

歌音とて気付いたときには咄嗟に己の考えを打ち消そうとしたし、今もまだ一つの疑問点に過ぎない。

それでも、学院の治安を考えれば、僅かな芽とて見逃すわけにはいかないのだ。

「暴走した仁志くんを止めるとき、長谷川くんが何て言ったか覚えてる?」
「どういう意味だ」


――あいつらも被害者なんだよっ、誰かに無理やり変なクスリ飲まされたんだっ!


正確なところは定かではないけれど、確かこんなことを言っていた。

「あれが、どうかし……っ!」

思い至った男が、僅かに目を見張った。

逸見ほどの頭脳ならば、すぐに気付く。

「うん。どうして長谷川くんは、襲って来た三人が「クスリ」を飲まされたと、知っていたんだろう」

以前、学院で起こったドラッグ事件を知るのは、碌鳴では限られた一部の人間のみだ。

詳しいことは警察に委ねたために分からないまでも、今回調査をすることになったものと同じドラッグが、服用者に強い催淫作用を及ぼすことは生徒会役員全員が知っている。

しかし転校生、加えて一般生徒であるはずの光が、なぜあの三人を見て「変なクスリを飲まされた」と分かったのだろうか。

確かに生徒たちは尋常でない雰囲気を醸し出していたかもしれない。

それでも「クスリ」と明言するのは、困難なように思えるのだ。

「碌鳴では嫌がらせの一環で、ああいった行為を仕掛けることがあると、彼だって知っていたはずだ。普通なら、行き過ぎた暴挙と受け取るはずのことを、長谷川くんはしっかりとドラッグのせいだと気付いていた」
「つまり、長谷川は……あのドラッグのことを認知していた。そういうことか?」
「分からない。でも、長谷川くんが転校して来たのは、最初のドラッグ事件の一ヶ月後。そして彼がここで生活を始めて一ヶ月が経ち、またしてもドラッグの問題が立て続けに起こった。……少し、気になるんだ」

言えば、珍しくも逸見の顔が不満そうに潜められる。

その理由は歌音とてよく分かるから、きちんと付け加えた。

「別に、彼が昨日の事件を自作自演したとか言うつもりはないんだ。でも、どうしても気になる」

知りえるはずのないことを知っていた転校生。

理由が分からない限り、この疑念と呼ぶべき引っ掛かりはなくならない。

生徒会会計は至極冷静に、光が事件の鍵になる気配を感じ取っていた。




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