静かなる予感。




SIDE:歌音&逸見

自室のリビングで険しい表情を作っていた天使は、扉を開けて入って来た友人に気付くや、ぱっと顔を上げた。

「アッキーは?」
「駄目だ。心身ともに、天岩戸状態だな」
「……そう」

ため息を交えて返された内容に、歌音もまた桃色の唇から重い吐息を吐き出した。

七夕祭りから一夜。

日曜日を使ってのイベントだったため、月曜の今日は振り替え休日となっており、二人は朝から昨日の事後処理をこなしていた。

「あいつも妙なところで気にするからな。結局直撃はしていなかったんだから、構うことないのに」

ローテーブルに広げられた資料を覗き込む歌音の、隣に腰を腰を下ろしながら言う相手の左の目尻には、白い絆創膏が一枚横たわっている。

生徒会長様直々の一撃で、気絶した暴走車両は、目覚めるや否や己のしたすべての所業を振り返り、すっかり塞ぎこんでしまっていた。

朝一番にやって来たかと思うと、平身低頭。

たまたま居合わせた逸見と共に、何度も何度も述べられる謝罪の言葉を前に戸惑ってしまった。

何せあの時は衝撃で暫く動けなかった逸見だが、仁志の蹴りはしっかりと腕でガードしていたために怪我はなかったわけで。

精々、使っていた眼鏡が割れた程度。

それも予備がしっかりとあるのだ。

気にするなと応じるこちらに深く下げられた金髪からは、彼がひたすら己を責めているのだと容易に察せられた。

今しがた、心配になって様子を見に行った逸見の口調から、相も変らぬ状態だったかと知る。

「今はそっとしておいてあげよう。きっと、『被害者』になった僕たちの誰と会っても、アッキーは辛いはずだもの」
「そうだな……。副会長には、何て言うつもりだ?」

出された名前に、歌音は眉を下げた。

幼い容姿に見合わぬ、憂いを帯びた表情が浮かぶ。

「……綾瀬くんも、きっと気付いているから。僕から話をしてみる」

一拍の間のあと、どうにか紡いだ言葉は、自分で意識したよりも遥かに陰鬱で、ただでさえ外の快晴とは程遠い胸中が、更に暗く翳りを見せた。

「歌音……」
「そんな顔しないで。本当に大変なのはこれからなんだよ?」

傍らから伸ばされた逸見の手が、滑らかな白い頬に添えられて、促された先に待つ相手と目が合う。

自分を守る庇護の手。

甘い痺れが絶望を伴って全身を廻る前に、少年は小さく細い己のそれで、やんわりと顔から遠ざけた。

瞬間、レンズの向こうにある眼が傷ついたように見えて、歌音は安心させるように微笑をこしらえた。

頼むから、その目で見ないでくれ。




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