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SIDE:穂積
長い睫毛に縁取られた目蓋が、暗闇の中薄っすらと開く。
覗いた黒曜石は、闇が落とされたリビングの中でも、不思議と煌いて見えた。
「ん……」
常では考えられぬ、鼻にかかったような吐息混じりの音を漏らしたのは、碌鳴学院生徒会会長、穂積 真昼である。
寝床にしていたソファから、ゆっくりと身を起こし、首を二度擦る。
ここで問題となって来るのは、穂積が一体どこにいるかと言うこと。
答えは今更だ。
男子生徒に襲われたショックからなのか、張り詰めていた緊張が途切れたせいなのか。
突然気を失った転校生を、相手の部屋まで運んで来たのは、学院最高権力者だったのだ。
加えて言うならば、着替えさせてやったのもまた穂積で、光の転校初日に「潰す宣言」をした人間とは思えぬ親切具合。
光の体調が気がかりで、しばらく彼の部屋に留まっていたのだが、気付けば連日の仕事の疲れもあって、人様の部屋ですっかり寝入っていた。
いつの間にやら、とっぷりと暗くなった部屋をきょろきょろと見回した男は、どこからともなく流れてくる、ザーという水音に気が付いた。
扉と床の隙間から、漏れる光に誘われるように、穂積はふらりと立ち上がると、音源へと足を進めて。
物音のする浴室のドアノブに、手をかけた。
カチャリ。
鍵のかかっていない扉が開き、電気の明かりと強い水音が、暗いリビングに流れ込んだ。
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