真実は夢に消える。




目を覚ました少年の視界に入って来たのは、ここ一ヶ月ですっかり見慣れた、自身の寮部屋。

真っ白な寝室の天井と、僅かの休息で幾分疲れの取れた体を包む毛布に、首を傾げた。

どうして自分は、こんなところにいるのだろう。

暫時ぼんやりと意味なく視線を巡らせて、それから一挙に理解した。

「あ……」

そうだ、そうだ、思い出した。

寝ぼけた頭を突き抜ける、今日一日の出来事。

転入後最初の行事に勝るとも劣らない、散々な目にあったのは、つい数時間前のことではないか。

光はすぐさまベッドを飛び降りると、きちんとカーテンの閉まった窓辺に駆け寄って、日差しの消えた熱帯夜に目を眇めた。

「俺、倒れたんだっけな」

零す台詞には、己に対する情けなさがたっぷりと含まれていて、短いながらも彼の胸中を雄弁に物語っていた。

朝からの喧嘩に加えて、強姦未遂。

インサニティの情報かと心の片隅で飛び跳ねていたら、仁志の暴走。

穂積があの不良を気絶させたと分かった途端、抗えぬ強烈な疲労に呑み込まれてしまった。

こうして自室で寝ていたと言うことは、誰かがここまで運んでくれたと言うことだろう。

助けてもらった上に、面倒ごとまで増やしてしまった不甲斐なさに、泣けてくる。

それでもどうにか気持ちに折り合いをつけて、頭を切り替えるように、深呼吸をした。

へこんでいる場合ではない。

ようやく念願のインサニティの手がかりが現れたのだ。

搬送された病院がどこかを、早速調べなければ。

すぐに木崎に連絡を取るべきだったが、今まで何の情報も掴んでこなかった己の働きぶりを考えると、もう少しネタを集めてからにしようと結論付ける。

意識的に仕事のことを脳裏に描くうちに、ようやく本当の意味で身内の整理が出来てきた。

寝起きでは気付かなかったが、光はTシャツとスウェットに着替えさせられていて、枕元のサイドボードには、携帯電話が置かれていた。

こんな手間までかけさせてしまったのかと思い、明日にでも生徒会メンバーにお礼を言いに行くかと、考えながら携帯で時間を確認する。

日付は変わり、深夜一時。

随分と長いこと眠っていたのだと驚いた。

なるほど。

日中の汗の名残に混じるように、空調の効いた中でもかいた寝汗に納得する。

夏場に風呂を抜くのは拷問だな、なんて考えながら、光はクローゼットから着替え一式を用意すると、寝室の扉を開けた。

真っ暗なリビングを意識することなく横切り、風呂場に直行。

一人部屋の気安さから、鍵をかけることなくさっさと服を脱ごうとして。

Tシャツに引っかかった物体。

「え?」

鼻の上に、眼鏡。

いつの頃からかすっかり仲良くなった存在に、戸惑った時間は短い。

なんだ。

自分は眼鏡を取らずに寝ていたのか。

よかった。

誰だか知らないが、自分をここまで運んでくれた人物に、余計な親切心を出されて取られでもしていたら、こちらの素顔がバレてしまうところであった。

そう深く考えることなく、己の幸運に感謝しながら、度の入っていないそれを外し、続けて鬘とコンタクトレンズも取り去ると、少年はすたすたと浴室に入って行った。




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