さっきからコンプレックスを刺激されている猿渡は、顔色をさっと真っ赤に変色させた。

「立場分かってんのか?テメェはボコらずに、まわしてやるよ」
「頼んでねぇよ、サルはマスターベーションでお忙しいだろ?」
「キザキぃっっ!!」

ヘッドの怒号を皮切りに、凶悪な少年の波が獲物に向かって襲い掛かった。

刹那。

キザキは鉄柵に足を掛けるや、そのまま宙に身体を投げ出した。

「なっ……!!」

まるで映画のスタントのよう。

燃えるような赤く染まった髪が、虚空を踊り夜の黒とネオンを従えて鮮やかな輝きを放つ。

細く伸びやかな四肢が、空を翔る錯覚。

銀色の輝きを注ぐ満月さえ、彼の背景に成り下がり。

スローモーションで流れる映像は、生命力に溢れた美しい迫力がある。

あまりの出来事に、怒りを剥き出しにしていた猿渡たちは、呆然とその光景に見入っていた。

理解の範疇を超えたアクションに、ただでさえ鈍い頭の回転が更に速度を落としフリーズ気味だ。

少年の足が降り立ったのは、遥か下方の路地ではなく、数メートル離れた隣のビルの屋上であった。

向こうの方が階数が低いため、度胸さえあれば飛び移るのは可能と言いたいところだが、残念ながら卓越した身体能力を持つキザキだからこその芸当だ。

「じゃあな、猿渡っ!今日はここら辺で退いとけよっ!」

鼓膜を打ったキザキの声にようやく我に返った面々は、未だショックが抜けず意味もなく慌てふためきだす。

催眠から解放されたばかりのように、目を数度瞬かせている。

「下に、俺んとこのヤツ集まりだしてっから、逃げるなら今だぞー」
「え?」

寄越された言葉に、猿渡がばっと柵から地上を見下ろせば、確かにチラホラと見える後藤のチームメンバー。

悔しそうに派手な舌打ちを落とす。

情けまでかけられてしまえば、認めるしかなかった。

キザキの勝利であると。




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