◇
眼前に提示された映像に、束の間息も止まった。
男たちに身体を暴かれかけたときですら、喉から音が消えることはなかったと言うのに、途中まで発した静止の叫びが、不自然に消えて行く。
「てめぇら、殺す……!」
なんだ、これ。
なんだ、これ。
すでに穂積によって一撃を受けていた生徒の胸倉を、容赦のない力で引きずり上げて、鳩尾に膝蹴り、続けざまにもう一発が埋め込まれる。
「っあ……がはっ……!」
「殺す、マジで殺す」
堪らず膝をつく生徒の肩に足をかけ、無理やり地べたに平伏させれば、そのまま顔面をつま先で蹴り飛ばした。
「長谷川くんっ、怪我は……アッキーっ!?」
「歌…音……先輩」
非情な所業に呆然と見入っていたとき、生徒会役員最後の一人が現れた。
オレンジ色の髪の下で、幼い顔がザッと青褪めたのが、逆光でも察せられて。
この場にあまりにそぐわない容貌を目にして、やっと我に返る。
「仁志……仁志やめろっ!何してんだよっ!」
ふらつく体で飛び出そうとするも、背後からそっと、けれど明確な力で二の腕を引かれて、生徒会長を振り返った。
「会長も何してんですかっ!?離して下さいっ!」
自分のためにタガが壊れてしまった金髪は、今尚凶悪な拳を振るい続け、ついにはぐったりと動かなくなった一人目を放る始末。
次なる標的に定められた生徒が、壮絶な怒りを込めた鋭い眼光に晒され、ヒッと声を上げたのが焦燥を加速させた。
にも関わらず、穂積は状況に一切頓着する様子も見せず、自分のシャツを脱ぐと、こちらの剥き身の肩にパサリとかけてくるのだ。
ワケが分からない。
いつものことと言ってしまえばそれまででも、今度ばかりは本当に。
この秀麗な美貌の主は、果たして自分と同じ映像を見ているのだろうか。
信じられぬ思いで凝視する光の表情から、何かを読み取ったのだろう。
穂積はそっと嘆息した。
「……あぁなった仁志は、止められない」
「そんなっ!だからってっ……」
「周りも見えていないからな、下手に近付くなよ。巻き込まれるぞ」
淡々となされる説明に、もう何がなんだか。
「あれじゃあ死んじゃうだろっ!?」
「そうならないように、祈るしかない」
言われた言葉を消化出来ずにいたら、鼓膜を劈く派手な金属音が倉庫を貫いた。
「仁志くんっ!」
「アッキーっ!……お願い、逸見っ」
歌音の呼びかけに応じて、忠実な右腕が動き出す。
連なったハードル目掛けて殴り飛ばされた生徒に、仁志の踵が持ち上がった。
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