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赤い錠剤が発揮する性的欲求の凄まじさに薄ら寒い思いを抱いたとき、光はふと気付いた。
そうだ。
インサニティを使わなければ、犯す気にならないのなら、そんな方法を取らなければいいではないか。
生徒会の目から逃れるために、拉致をしたのは納得出来るけれど、その後は別に袋叩きでも構わないはず。
痛めつけるだけ痛めつけて、学院から去れと脅しかければ、大抵の人間は大人しく従うだろう。
それなのに、乗り気ではない強姦と言う手段をわざわざ選らんだのは何故だ。
彼らの狙いが今ひとつ分からない。
湧いた疑念に気を取られていた一瞬の隙をついて、一人の生徒が光の肩をぐっと掴んだ。
「っ!」
ガシャンッと鈍い音を立てて、金属の扉に細い身が押し付けられる。
至近距離で聞こえる激しい息遣いに、ぞわりっと二の腕が粟立った。
「やめろっ……この、離せっ!」
制服の腹から侵入しかけた相手の掌に、頭の中で警鐘が悲鳴を上げた。
ガードも何もない男の腹目掛けて、膝頭を叩き込んだ。
「ぐぁっ……っ」
「え……?」
疑問の一文字を出したのは、そのときだった。
攻撃を受けた生徒は、大袈裟なほど派手に床に倒れると、腹を抱えてやけに苦しそうな声を上げたのである。
鳩尾狙いの一撃だったと言っても、加減はした。
想像を超えたリアクションに、何か持病でもあったのかと心配になり、慌てて身を屈めて様子を探り―――目を見開いた。
「なんだよ……これ」
地べたに転がる生徒の顔も、そして体も。
殴られたような鬱血、整った顔の切れた口端、白いシャツに押された蹴り跡。
薄暗くて分からなかったが、明らかに誰かによって暴力を振るわれている。
服に隠れて見えないけれど、恐らく先ほど自分が膝蹴りを沈めた場所は、先に別の人間によって傷つけられていたに違いない。
放心しかけるも何とか我に返った光は、離れた場所で呼吸を乱す残りの二人を凝視した。
まさか彼らも、と予想したのである。
「誰が……」
予想は裏切られなかった。
体育倉庫にいる三匹の獣は、皆一様に傷を負っていたのだ。
ボロボロの生徒たち。
望まぬ方法。
インサニティ。
符号が繋がった瞬間、息を呑んだのは、残りの二人が襲い掛かって来たからというだけではなかった。
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