いっそ清々しいほどに言い切られて、不良はぐっと言葉に詰まる。

その横で、綾瀬がくすくすと笑みを零した。

「……なんだ」
「んー別に。気にしないで」
「言え。思わせぶりに笑っておいて、黙秘は認めない」

目に力を込めて促す様は、一塊になった生徒会役員を遠巻きで見つめている生徒たちを氷つかせたが、如何せん幼馴染には通用しない。

まったく表情を変えぬ……どころか、更に楽しそうな顔をして、相手は答えた。

「怒らないでね。なんか、長谷川くんを見つけられなくって、拗ねてるみたいなんだもん」
「……は?」

予想外な台詞に、優秀な頭脳も暫時動きを止めた。

拗ねている?

拗ねている、とはどういう意味だ。

と、言うよりも。

誰が拗ねていると?

じわじわと理解していけば、口端がピクリと引きつった。

「……綾瀬」
「怒らないでって言ったのに」
「撲殺と絞殺、今なら好きな方を選ばせてやる」
「どっちも殺すことには変わりないじゃない。それに、今ならって、今じゃなきゃ選択肢に何が加わる……と、余計なこと言っちゃった」

あわあわと己の口を手で押さえる姿に、怒りが増幅された。

見せ付けるように拳を握り締め、魔王さながら不適に微笑んでやる。

流れるは不穏な空気と、禍々しいバックサウンドか。

だが、そんな凶悪で日常的なシーンを崩したのは、今まで何故か黙したままでいた生徒会会計だった。

「ちょっと待って、穂積くん」
「なんだ?俺は今からどこぞの間抜けを潰すために忙しいんだが」
「今回はいつもより怒るなぁ。やっぱり長谷川くんと会えなかったのが……んぐ」
「綾瀬先輩、火に油注がなくていいですから」
「暴走車両が運転ルールを諭すとは、世も末だな」
「んだとっ!てめぇ誰が暴走車だっ!?あぁ?大体俺よりもよっぽどてめぇの方が暴走してんじゃねぇかっ!」
「違反回数で罵るな。泥仕合決定だろう、頭を使え」
「うっせ、つーかてめぇ本当にちゃんと光のこと探したのかよっ。暑さにやられて見落としただけなんじゃねぇの?だいたい、下手すっと呼び出しかまされてる可能性だって……」
「アッキーっ!!」

生徒会室恒例のカオス開幕が、唐突に止む。

歌音の鋭い一喝のせいではない。

彼の声が示す意味を、全員が悟ったのである。

売り言葉に買い言葉、ぽろりと口から滑り出てきたワードに、仁志を始め全員が絶句していた。

――呼び出し

どうして今の今までその可能性を考えなかったのだろう。

いくら手出し無用宣言で生徒を縛ったところで、集団のフラストレーションはあまりに威力が強い。




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