SIDE:穂積

「どこに隠れた、ごみ虫が」

忌々しげに吐き出すと同時に、額から零れた一滴が乾いた煉瓦道に弾けた。

ゲーム開始から一時間が経過したと言うのに、未だペアを組んだ転校生の姿は見当たらない。

スタート地点であった体育館前から、勘に従って正門まで来てみたと言うに、見つかるのは何故か道端で気絶している生徒ばかり。

こちらの姿を見つけるたびに、暑さのせいで苛立たしさ倍増のきゃいきゃい騒ぐ輩よりはよっぽどいいが、大方熱中症で倒れたに違いない。

自分の体調管理も出来ない生徒を、一々人を呼んで救護テントまで運ぶよう言いつけるのは、手間以外の何物でもなかった。

門の外へ出るはずもないから、仕方なしに本校舎まで戻って来てはみたものの、やはり不格好な黒髪は見つけられず、流石に苛立たしくもなってくる。

まさか隠れているのではないか、などと有り得ない懸念まで過ぎってしまう。

生徒会役員は出来るだけ早くペアと合流し、本部に戻っておくのが通例。

イベントを盛り上げるために参加しないわけにはいかないが、補佐委員だけに運営を任せておくのは少々気になるところ。

穂積としてはいい加減に光と落ち合い、冷房の聞いた本部に戻ってしまいたかった。

ふと目を向けた先に、見知った面々を見つけたのはその時である。

「綾瀬っ」
「あ、穂積!」

気付いた友人の声に釣られ、他の者も目を向ける。

仁志に歌音、逸見まで。

どうやら自分以外の生徒会メンバーは、すでにペアと合流しているらしい。

こうなると、益々己の探す相手がどこにいるのか気になって来た。

「どこかで長谷川を見なかったか?」
「見つかってないの?僕は見てないけど……」

言いながら、副会長は傍らの男に視線で尋ねる。

「いや、俺も見てないっす。熱中症でぶっ倒れてないといいんですけど」
「さっき救護の方に連絡したが、運ばれて来てはいないらしい」

光以外の患者は続々と運ばれて来るので、向こうは大慌てらしく、聊か適当な返事であったようには思えるが、自分が知るあの少年が、太陽光如きに屈するとも思えない。

真夏の日差しに晒されたとて、せいぜい光合成をするくらいだろう。

目撃者がいないと分かると、穂積の顔は当然ながら険しくなった。

これは合流を諦めて、早々に本部に戻ってしまった方がいいかもしれない。

あまり長引かせて、運営側に回れなくなるのは避けるべきだ。

「お前たちは無事に会えたみたいだな」
「うん、まぁ……今から運営本部に戻ろうかと思って」

どこか歯切れ悪く応じた綾瀬に、内心で訝りながらも、では自分も同行してしまうか、と考えた。

「仁志、お前長谷川の番号分かるなら、俺がリタイアすることをメールしておけ。ずっと俺を探し回られたら、困るからな」
「了解……っつか、てめぇ当然のように俺をパシんなっ!」
「『会長』の手足がお前らだろうが」




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