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自分が取るべき選択が分からなくなる。
だってそうだ。
この少年たちを捕まえて、碌鳴の生徒会に逆らったことを後悔させなければならないと、歌音は自覚していて言うのだ。
誰にも言うなと、見逃してくれと。
すべて自分の我侭だと主張して、加害者を庇おうとしている。
腕にしがみつく天使が、見かけ通り幼い内面を持ってはいないと、綾瀬はよく知っていた。
大きな瞳に映る広い視野で、誰よりも他人を、周囲を、気にかけている彼。
その歌音の行動には必ず意味がある。
しかし、今回ばかりは分からない。
取るべき道を失ったこちらの動揺は、傍目にも明らかだった。
竦みあがっていた少年の一人が、そろそろと控えめに動き、地面に転がっていた棒切れを拾い上げると。
「っ、歌音ちゃんどいててっ!」
「やぁっ!」
二人目掛けて、頭の上から思い切り振り下ろしたのだ。
力任せに歌音を突き飛ばし、自分は土に塗れるのも厭わず大地に転がる。
ガッと鈍い音が辺りに木霊。
木の幹に激突した棒切れは、ミシッと悲鳴を上げた。
「君たち……」
「まさか副会長にバレるなんて思わなかった……流石に分が悪いからね」
数名の少年の内、リーダー格なのか。
一人の少年が追い詰められた形相で、こちらを睨みつける。
綾瀬に発覚した時点で、自分たちの処分が確定したと思ったのだろう。
でなければ、ここまで浅はかな行動には出られないはずだ。
少年の背後では、残りの仲間がぎょっとしていて、無謀だと訴えていた。
「ちょっと、不味いよっ!」
「そうだよ、『綾瀬』を敵に回したら僕たちどうなるか……」
「うるさいなっ!なら黙って処分を待てって言うのっ!?」
「それは……」
思わず口篭った面々に、リーダーは声を荒げた。
「なら潰しちゃおうよっ!副会長だって僕らと大して変わらないはずだもんっ、人数で見れば明らかに有利でしょっ!?」
不味い。
平時ならば誰も続かないはずの煽動も、極限状態に追いやられた人間には有効だ。
後々どうなるかまでに気が回らなくなり、目先の危機を脱することばかりに目が行ってしまう。
華奢な綾瀬の体躯と、明らかな人数差。
一人、また一人と、少年たちは手当たり次第、武器になりそうなものを見つけ出す。
「そう……だよね、ここでやっつけちゃえば、いいよね」
「大体、悪いのはアダムスなんだ」
「そうだよ、逸見様をいいように使うなんて許せないよ」
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