懇願は誰の為に。




SIDE:綾瀬

「中等部の頃から、綾瀬さんのことを想っていました」

緊張と興奮から僅かに頬を上気させた生徒に、綾瀬はにっこりと微笑んだ。

麗しい美貌に咲き誇った笑顔に、相手は何を勘違いしたのか喜びに満ち溢れた表情を浮かべる。

が。

「ごめんね。僕、君のことを嫌いって言うわけじゃないんだけど、ぜんぜん知らないから好きになりようが……って、ゴ、ゴメンっ!」

綾瀬が言を紡ぐにつれ顔色を変えた対面の生徒に、慌てふためく副会長。

生徒会役員と接触出来る数少ない機会に、心を奮い立たせて告白した勇者は、悪意のない痛烈な「お断り」に玉砕した。

天然なのか腹黒なのか、今ひとつ読めない麗人に、本日だけで何人の生徒が胸を抉られたことだろう。

毎月行われるイベントには、普段の学院生活ではあまり姿を見られない生徒会役員も参加することが多く、こうした事態はたびたび発生する。

補佐委員会が目を光らせているから、ある程度は抑えられているはずだが、それでも完璧には防ぎきれていない現状は、数えるのも億劫なほどの人間が、生徒会メンバーに恋慕の情を抱いていると教えてくれた。

それはもう、碌鳴の中で強大な権力を持つ者の責務の一つ、とも言えるレベルだ。

眼前で沈黙してしまった生徒をどうしたものかと思いながらも、綾瀬はそろそろ仁志の捜索を再開させたいなぁ、などと考えていた。

ゲーム開始前に本校舎の前で別れてから、ペアの彼とはまだ合流出来ていない。

制限時間も半分を過ぎたことだし、そろそろ落ち合いたいものだ。

彼とて光を探しに行きたいことだろうし。

ここ最近の仁志の不調の原因は、やはりあの転校生だった。

珍しくも彼が友達として認めた相手。

まだ直接会話をしたことはないけれど、友人たちからの情報を鑑みれば、自然と好感が持てる相手のようで。

生徒会メンバーは例外として、乱暴な口調とは異なり面倒見のよい仁志が、実は人好みが激しいことは知っている。

そんな彼が心を開いたのだから、綾瀬としてはいつまでもぎくしゃくして欲しくはない。

言い難そうにペアを申し込んできた後輩の表情を思い出し、胸が小さく軋んだ。

意識を内側に向けていた綾瀬は、正面で俯いたまま硬直してしまった生徒が、何か吹っ切れたような顔でこちらを向いたことに、気付くのが一拍遅れた。

「俺、どうしても諦められませんっ!!」
「は?」
「綾瀬さんっ!」
「えぇっ!?ちょっと君、待って……」

フラれたことで何かがキレてしまったに違いない相手の暴挙。

叫びと共に勢い良く伸ばされた腕が、華奢な肩を掴む

その前に。

綾瀬は生徒の腕を片手で抱きこむように取ると、相手の勢いをそのまま利用して、自分よりも随分と身長の高い男子生徒を背中から地面に叩きつけた。

「っは……かっ!」




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