月夜に踊る。
その夜はいつにない騒がしさであった。
日が暮れれば『不良』と呼ばれる少年チームが、繁華街を中心に跋扈するこの街ではあったが、それでも今日は特別。
この世界を少しでも知っている人間は、今夜ばかりは大人しく帰路についただろう。
「いたかっ!?」
「いや……そっちはっ?」
入り組む路地裏で交わされた少年たちの言葉は、切迫した色で溢れ返り、尋常でない事態なのだと察するのは容易である。
一人の少年が他はどうだと電話をかけるが、ろくな返事もなく乱暴に携帯をポケットにしまった。
「どうする?そろそろやべぇぞ」
「どうするもこうするも、探すしかねぇだろ。お前は向こう行け、俺はあっち見てくるから」
「悪ぃな、アキ……お前あんま関係ねぇのに」
すまなそうに眉尻を下げられて、少年は気にするなと肩を叩くや走り出す。
それを合図に、他の少年たちも方々に散開した。
春の夜は予想以上に肌寒かったが、延々と走り続けるせいで水分を帯びたTシャツが気持ち悪い。
額に滲んだ汗が頬を伝い、顎の先から滴り落ちた。
今日、この街に勢力を持つ二つのチームが激突した。
規模も力も互角の争いは、しかし思わぬ方向に流れることになる。
片方のチームが二手に分かれ、一つでメンバーの足止めを、もう一つで敵方のヘッドを集中的に狙い出したのだ。
苦戦を強いられたヘッドは辛くも撤退したが、そのせいで他のメンバーとはぐれてしまった。
今、ヘッドがどこにいるのか、どのような状態なのか。
何度コールしても繋がらぬ携帯電話が、メンバーの不安を煽り、皆リーダーの捜索に躍起になっている。
脳裏に浮かぶのは最悪のビジョンだけで、半刻経っても見つからぬ現在、それは最早想像ではなくなっているかもしれない。
懸命に足を動かしていた少年が小さく舌打ちをしたとき、横道から転がり出てきた人物がいた。
思わず足を止め、目を見開く。
「お前……っ!」
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