◇
「穂積様がね、体育館の近くにいらっしゃったの!」
「それ本当っ!?」
「うん、勇気出してお声をかけようとかと思ったんだけど―――……」
体育館方面に移動を続けていた少年は、センサーに引っかかった会話に、自分の幸運を喜ばずにはいられなかった。
すでに東棟近辺から場所を移しているとは思っていたが、まさか自分が目指している先にいるだなんて。
遠回りをしてよかった。
チラリと腕時計に目をやれば、ゲームが開始してからそろそろ一時間が経とうとしていた。
丁度制限時間の半分を過ぎたところだが、流石に今現在まで身体を酷使していただけあって、疲労感は凄い。
幾ら学院が森の中にあるからと言っても、やはり高い気温の中を駆け回り、一対複数のバトルを何ラウンドもこなしていれば当然だ。
ここらで穂積と合流して、さっさとゲームを終了出来ると思うと、肩に入っていた力が抜けた。
そうと分かれば、背後から追いかけてくる仁志のファンと思しき生徒たちも、手早く片付けたくなる。
適当にいなしてさっさと生徒会長様の加護を預かった方が得策だろうと、光は速度を緩めた。
するとすぐさま距離は詰まったらしく、極近い位置に他人の気配を感じた。
場所はすでに体育館の傍。
ちらりと視線を流せば、体育倉庫も見える。
穂積の姿を見つけようと瞳を動かしながら、完璧に足を止めた。
「会長……どこだよ」
ぐるりと視線を巡らせるも、件の男はどこにも見当たらない。
仕方ない。
先に背後の輩をどうにかするか、と。
光が振り返ったときだった。
「え?」
油断していた。
穂積が周囲にいるはずだからと、きっと油断していたのだ。
眼鏡に切り取られた視界に入ったのは、体格のいい生徒二人。
だが、背後から与えられた首元に走る強い衝撃に、もう一人仲間がいたのだと悟る。
気が付いても、もう遅い。
ただでさえ限界間近の光の体は、あっさりと意識を手放し。
世界は暗闇に染まった。
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