「逃がすかよっ!とーまーれぇぇっ!!」
「ちょっ、馬鹿っ!」

無謀にも両手を広げて待ち構える不良少年に、何を考えているんだ、と頭の中が瞬時にパニックを起こす。

だってそうだ。

光はもう、十分に加速をしていて。

突然現れた障害物を避けるには、対象までとの距離はあまりに短くて。

少年は何も知らないのだ。

人間同士がぶつかる衝撃の威力を。

でなければ、こんな無茶な真似誰がする。

今更、止まれるはずがない。

眼前のまだ幼さの残る顔が、驚愕と恐怖に目を見開いた。

「くそっ……!」

漏れる呼気の隙間へと、少年の罵倒が落とされた。

それは瞬きの間。

不良少年の強張った細い肩に、手をかけて。

光のつま先が、大地を蹴った。

「うそ……」
「……え?」

現実に起こった出来事を、まるで認識していないと主張する、生徒二人の声。

何が起こったのか理解するには、常識外れなアクションだったのだから当然のこと。

陰鬱な黒髪の転校生は、相手の肩を取っ掛かりにすると、疾走の勢いを利用して倒立の動きとよく似たもので少年を飛び越えたのである。

驚くほどに軽やかな身のこなしは、少しも重力を感じさせない。

ポンッと軽快な音でもしそうだ。

着地もまた見事で、離れた位置から眺めているだけであった生徒の片割れは、口を半開きにしている。

「危ないから、もう二度とやるなよっ!」

そう言い置いて、容姿とかけ離れた曲芸を披露した存在は、何事もなかったように走り去った。

ただ呆然と、動きを止めた二人の子供を残して。




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