五感をフルに使い、零れている話はないかと周囲を気にしながら走り続ける。

きらきらと眩しい太陽に促され、額から汗が流れ落ちた。

続く格闘戦と日光のおかげで、白いシャツは少し重い。

この時期の喧嘩は、予想以上に体力を消耗するものだと実感していたところで、少年は前方に現れた二つの人影に、心底嫌そうな顔をした。

「仁志様に近付くな根暗っ!」
「学院から出てけっ」

出たな、雑魚モンスター。

二人組みは行く手を阻むように仁王立ちをして、ギロリとこちらを睨みつける。

片方は学院でよく見る少女めいた容姿の少年で、もう一方は珍しい不良スタイル。

ツンツンと元気よく跳ねさせた脱色済みの髪と、小柄な身体に纏った着崩した制服は、誰かを連想させるもので。

光は正門から倒して来た生徒たちを振り返った。

体格や学年は様々。

けれど、彼らには共通点がなかっただろうか。

「仁志の……ファン?」

足を止めぬまま、口の中だけで呟いた。

そうだ。

彼らは一様に同じことを言っていた。

近付くな、とか。

調子に乗るな、とか。

頭や末尾に『仁志』のキーワードを加えて。

生徒会会計の信者が一番の過激である、と教えられたのは、サバイバルゲームを終えた直後だ。

なるほど。

過激なんて言われるくらいなら、策略を巡らせて余計な手間をかけるよりも、罰則覚悟で正面攻撃に乗り出しそうだ。

学習能力がないのではなく、分かっていて敢えて選んだ結果がこれ。

例えどんな制裁が下されようとも、仁志の命に逆らってでも、こちらを潰すために力を尽くす。

考えが浅いとも言えるが、確かに過激と呼ぶに相応しい志向であった。

誰も教えてくれなかった解答を自身で弾き出した光は、やや満足そうに微笑んだ。

そうして、正面で身構える二人組みから進路を変えて、脇を通り過ぎようとした。

「あっ!」
「逃げるつもりかっ!?」

ご明察。

もとより、今まで伸して来た連中とは異なり、身体付きの未熟な二人に手を上げる真似はしたくない。

東棟付近で目撃情報のあった魔王を探すには少々手間だが、遠回りでも校舎から離れて北にある体育館側から周り込むしかないだろう。

脳内地図を展開させルートを確認していた光は、しかし右横から視界に躍り出てきた少年に、ぎょっと目を剥いた。




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