並木道を校舎に向けて走りながら、小さく呟く。

「……意外と優しい魔王だけどな」

ペアに誘われたときには、何か企んでいるのだろうかと疑いかけたが、仁志が別の人間とゲームに参加すると知れば、穂積が気を使ってくれたのだと察するのは容易かった。

転入初日の一件が嘘のように、ここのところ光は彼の優しさに触れていた。

と、物思いに沈んでいられたのは、そこまで。

本校舎の姿を大分近くに捕らえれば、碌鳴の制服は正門付近よりもずっと多くなった。

ピタリと足を止めて様子を伺ったが、彼らは皆自分のパートナーを探すことに集中しているらしく、光を見つけても軽く睨みつける程度で、すぐにどこかへと走り去ってしまう。

地味な姿のこちらには、気付かない者さえいた。

この行事で出会えるか否かが、彼らにとってどれほど重要な意味を持っているのか、今ひとつ理解していない光は、まぁそんなものかと思うに留めた。

不意に転校生の横を、一人の生徒が通り過ぎた。

特に注意もせずにまた自分の相手を探そうとした光だが、飛び込んで来た情報に耳を澄ませた。

「ねぇ、ねぇっ!」
「あ、僕のペア見なかった?」
「そんなことより、さっき東棟の方で穂積様見ちゃった〜」

さり気なく視線を流してみれば、先ほどの生徒が恐らく友人だろう少年に、興奮した調子で聞かせている。

「ほんとっ!?いいなぁ、こんなときじゃないと穂積様のお姿なんて、中々拝見出来ないもんね」

「まだそっちの方にいるかもよ、気になるなら行ってみたら?」
「そうしたいけど、ペア見つけないと……」

彼らはひとしきり情報交換を済ませると、また方々に走って行った。

七夕祭りでは、携帯電話の使用やペアとの事前の打ち合わせが禁止されているものの、生徒間の情報交換は認められている。

自分の組んだ相手を仲間に教えていれば、幾分探すのが楽になるのだ。

しかしながら、学院一の嫌われ者。

光に情報をくれる人間など居ようはずもない。

だが。

「これっていい手かも」

『盗み聞き』

いやいや、騒ぎ声がたまたま聞こえてしまっただけだ。

自らに言い訳をする少年の口元は、不敵な笑みを刻んでいた。

絶大な人気を誇り、証として生徒会会長の座に君臨する穂積ほど、一般生徒の注目を集める存在はいない。

加えて、仁志のように行事期間中はほとんど校内に現れていないのなら、彼を目にした生徒は誰かに話したくて堪らないはず。

久方ぶりに姿を見たと、きゃいきゃい黄色の声で騒ぎ立てる。

碌鳴ルールを逆手に取れば、もしかすれば思いの外簡単に穂積と合流出来るかもしれない。

光は入手したヒントの通り、本校舎の前を通り過ぎると、東棟側へと向かった。




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