◆
これは直感。
そして確信。
光とならば、腹を割って話の出来る関係が築けるのではないかと。
ふと、視線を感じて意識を浮上させた男は、歩みを止めてこちらを見つめる瞳に驚いた。
「どうし……」
「変な感じだね」
「え?」
柳眉を下げて柔らかく微笑む相手は、階段の踊り場から数段上にいる仁志を、手招きする。
意図が読めないながらも大人しく彼の傍まで降りると、綾瀬はそっと背伸びをした。
「気になるなら、悩んじゃ駄目だよ」
「……っ」
「自分の気持ちを、そのまま伝えればいい。考えたって、答えは出ないんでしょう?」
自分より背の低い相手の細い手が、仁志の金髪を優しく撫でた。
労わるほどに繊細な手つきは、同時にこちらを後押しするような温かみを帯びていて。
目を見張って綾瀬を凝視すれば、彼はくすんと笑った後、何事もなかったように背中を向けて歩きだした。
仁志の足は硬直したまま、動かない。
「長谷川くんなら大丈夫だよ。なんたって、今回の彼のペアは我らが生徒会長様だもの。手を出せばどうなるかぐらい、生徒のみんなだって分かってる」
「……だといいんすけど」
「心配なら、僕たちが合流したあと、探しに行こうよ」
ようやく石化が解けるや、随分と離れてしまった相手に追いつこうと、仁志は動き出す。
眼前では甘栗色の長い髪が、揺れていた。
「綾瀬先輩」
「ん、なに?」
「前から聞きたかったんですけど……先輩って天然?それとも確信犯?」
綾瀬は振り向かないまま、楽しそうに返事を寄越す。
「似たようなこと、穂積にも聞かれた」
あぁ、助かった。
もう少し、まだ振り向かないでくれ。
朱色で彩られた顔など見られたら、立ち直れそうにない。
宿った熱を逃がすように、男は静かに息をついた。
まったく、この人には敵わない。
暫時閉ざしていた目蓋を持ち上げると、双眸には確かな輝きが煌く。
ゲームを終えたら。
今度こそ。
光と向き合おうと、決心した。
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