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先週の終わり、仁志は綾瀬にペアの申し込みをした。
自分が別の人間と組めば、必然的に光があぶれると想像出来ていたのに。
どうしても、彼の傍にいることは出来なかったのだ。
長い黒髪と眼鏡で素顔を隠した転校生。
覗く白い肌の上には、いつか見たキザキの美貌があるのだろうか。
脳裏から離れぬ電話の台詞に、仁志は意識を飛ばした。
―――後藤さんな、逮捕されたんだわ
衝撃だった。
詳しい理由は分からない。
ただの不良チームの頭に過ぎなかった後藤。
自分が知る限りでは、大した度胸もなく優秀な右腕に支えられてこそ、集団の上に居られた程度の存在だ。
どうして後藤が逮捕されたのか。
不明瞭な理由を加速させるのは、姿を消したというキザキ。
それも頭が逮捕される少し前にだ。
タイミングの良すぎる引き時に、キザキ―――いや、光への疑念は更に色を濃くしていた。
最近では、行事を言い訳にして、朝食さえ一緒に取ることもなかった。
逃げであると自覚していたけれど、どうして平然な顔をしていられようか。
お前は誰なんだと。
問いかけても決して与えられぬであろう返答。
二度だ。
二度も訊ねて、そのどちらも光は答えなかった。
答えられない内容を、無理に聞き出してどうなる。
相手がそれ以上の介入を拒むのならば、自分に許された範囲で関係を続ければいい。
友人だからと言って、何もかもを晒さなければならない義務はないのだから。
自分とて、光に言っていないこともあるくせに。
ブリーチの髪の下で、仁志の顔が翳る。
分かっている。
頭では理解しているのだ。
それなのに。
積もり積もった疑念が邪魔をして、謎ばかりの友人の前に立つことも出来ない。
正体の掴めぬことへ不信感とは違う。
害ある存在を排除しようとする警戒心とも。
純粋に。
ただ純粋に。
光の友人であるために、仁志は彼の秘密を知りたいと思っていた。
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