彼の手は何を願う。




SIDE:生徒会

『みんなー、テストはどうだったー!?』

やたらと陽気な声が、学院に響き渡った。

そここに備えられたスピーカーから流れ出る音声は、校舎内外問わず行き渡り、方々に散っている生徒たち全員の耳に入っていることだろう。

運営本部を設けている放送室からのアナウンスで、司会を務める綾瀬の姿は見えないと言うのに、生徒たちはワッと歓声を上げた。

『出来た人もそうじゃなかった人も、とにかく今日は楽しんじゃえっ!』

テスト明けの日曜、学院でも人気の高い七夕祭りは開催された。

外はカラリと気持ちよく晴れていて、熱中症が出ないようにと給水ポイントを随所に設置してある。

生徒たちは互いのペアと引き離され、補佐委員たちに連れられ碌鳴の敷地に散り散りになり、綾瀬の声がゲームのスタートを告げるのを今か今かと待っていた。

テスト期間中の三日間、各自ペアとの接触は禁じられており、事前にどこで落ち合うかなど決めておく不正行為が起こらないようにと、当日まで誰がどこに配されるかは明かされていなかった。

携帯電話もすべて委員が回収しているので、本当に己の勘だけで相手を探さなければならない。

当然ながら制限時間内に合流出来ないペアがほとんどであり、だからこそ出会えた二人は幸せになれる……なんてジンクスがあるのだ。

仁志は放送室の窓からチラホラと見える生徒たちの姿をぼんやりと見下ろし、日光を受ける硝子にコツンと額をぶつけた。

『ルールは簡単。制限時間の2時間以内に、自分のペアと合流して体育館まで来てね! 携帯電話の使用や不正行為を見つけたら、注意じゃ済まないよ』

つまらない真似はNGです!と、綾瀬がマイクに向かって笑っている。

その中性的な貌を視界に入れて、仁志は小さく息を吐き出すと、凭れていた窓から身を起こした。

ジェスチャーだけで「先に行く」と伝えれば、待ったの合図。

『それじゃあ、開始時刻は今から10分後。みんな、頑張ってねっ』

やや早口に言葉を締めると、生徒会副会長はマイクのスイッチを切った。

「なにかありました?急がないと……」
「昇降口まで一緒に行こう、ね?」
「……はい」

小首を傾げながら提案されれば、大人しく従うしかない。

血の上った頬を見られないように、顔をそらしながら仁志は綾瀬と共に部屋を後にした。

すでに穂積や歌音は自分たちの出発地点に向かっており、まだ分かれていないペアは自分たちだけ。

いつもよりずっと静かな校舎の階段を下りながら、今回のパートナーに話しかけた。

「無理言ってすいませんでした」
「ペアのこと?」
「……」

無言を肯定と取ったのか、先を行く華奢な背中がくすりと笑った。

「僕はてっきり、長谷川くんと組むつもりだと思っていたから、驚いたよ」

その言葉は暗に、何故あの転校生と組まなかったのかと、問いかけていた。




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