第一学期期末試験。




人の悪意は些細な出来事でぶわりと花開くものだ。

一度咲いてしまえば容易に枯れることもなく、また摘み取ることも叶わない。

七夕祭りのペア申請書提出期限を待たずして、あの学院で最も疎まれている存在が、学院でもっとも崇拝されている男とペアを組んだことは、知れ渡っていた。

そこに一人の人間の介入があることを、幸か不幸か光は知るはずもなく。

ただ、ここに来て急激に肌を焦がす敵意を感じ取り、先に控える展開を冷静に推察する。

静まり返った教室の中、少年は早々に終わってしまった答案用紙を裏返すと、教師に見咎められぬ程度に、さらりと室内を目でさらった。

本日、第一学期期末試験最終日也。

考えるべきこと、頭を埋める事項は他にあり、すっかり失念していたが、今月のイベントは試験の打ち上げ的なポジションに位置している。

生徒たちは強烈な悪意を一先ず収束させ、現在も必死に問題と向き合ってはいるが、明日になれば話は別だ。

冷たい手で背中を撫ぜられた錯覚を覚え、光は小さく身を振るわせた。

向けられる負の感情。

害意の波に飲み込まれた先月がフラッシュバックする。

憎いと。

お前が憎くて堪らないと。

無数の瞳に込められた、仄暗い明かりは主張していた。

あの中にまたしても突き落とされるのだろうか。

生きることさえ諦めそうになった、あの重苦しい痛みばかりの世界に。

生徒会からの勧告もあり、生徒たちのフラストレーションはぎりぎりまで膨らんでいる。

七夕祭りで発散されないわけがない。

光はそっと目蓋を下ろした。

いいや、大丈夫だ。

生徒会の命令は絶対なのだから、以前のように露骨に追い詰められることなどあるはずがない。

彼らだってそう愚かではないはずだ。

自分への手出しは釘を刺されているのだし、もし露見すれば今度こそただでは済まないと理解しているはず。

己の力だけではどうにもならない事態に、僅かな苦味を感じる。

誰かに守られなければ、何かを楯にしなければ、自分の身さえ守れない現状。

進まぬ捜査と合わさって、歯痒さが増す。

隣の席に、仁志はいない。

試験までサボって平気なのだろうかと思うが、彼をこの部屋から遠ざけているのは、恐らく他でもない自分。

心配する資格などない。

友達と名乗る資格がないのと同じように。

ふと、先日の出来事が蘇った。

―――穂積。

柄にもなく優しさを与えてくれた男の言葉は、光の中に確実に蓄積され、ともすれば自己嫌悪に浸りそうな少年を救ってくれていた。

偽りだらけの自分でも、真っ直ぐな思いを育ていけそうな。

淡く頼りないながらも、確かに芽生えた思い。

遠くない未来。

己の口から『友達』と呼べる人間を作りたい。

それが仁志なのか、そうではないのか。

彼が売人候補である現在、まだ分からないけれど。

光は思うのだ。

最初に自分が友人と呼ぶ相手は、あの鋭い眼光ながら世話焼きな一面を持つ、金髪頭の少年であればいいと。

テスト終了を告げるチャイムが鳴ったのは、次のときであった。




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