有り得ない、どうしてあんな不恰好な人間を、穂積は受け入れているのだ。

自分は駄目で、長谷川はいいだなんて、おかしいではないか。

ふつふつと込み上げる熱い滾りに、身体が燃えそうだ。

穂積は長谷川の顔を覗き込んだあと、道場を後にすべく革靴を履く。

こちらに向かって来ると察するや、彼は更に身を潜ませる。

「―――七夕祭りの――決まってない――」

男の声が、風に乗って届く。

途切れ途切れながらも、穂積が間近に迫ったイベントについて語っているのは、キーワードのお陰ですぐに分かった。

転校生は何やら短く返し、それに応じる。

「なら、俺と組むか」

え?

聞こえた台詞は、何だったか。

意味を理解したのは随分経ってからだ。

穂積の姿はこちらに気付くことなく去って行き、道場には長谷川が一人。

茫然自失と言った様子を目にして、ようやく彼は事態を呑み込んだ。

穂積が。

自分が敬愛するあの穂積が。

散々彼に牙を向いた根暗な転校生を、ペアに誘ったのだ。

例えば気まぐれだとしても、性質が悪過ぎる。

過去二年間のこのイベントで、穂積は生徒会メンバーとしか組んだことはなかった。

今回もまたそうなるだろうと、悔しいながらも諦めがついていた彼にとって、到底受け入れることの出来ない展開だ。

常に穂積の傍を固める面々ならば、容姿も家柄も学院内での人気だって納得せざるを得ないものだが。

直視出来ない外見、凡庸な家柄、学院では忌み嫌われている長谷川 光がペアだなんて認めるわけにはいかない。

ぐんぐんと上昇して行く体温は、堪えきれない怒りのせいだ。

彼は荒らぶる心を落ち着けるように、何度も深呼吸を繰り返した。

それでも一向に憎悪と言う名の激情は衰えず、殺気さえ見える双眸で、細い人影を睨みつけた。

「許さない……許さないから、長谷川…光っ」

彼の名前は霜月 哉琉。

生徒会補佐委員会副委員長にして、会長方筆頭である。




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