その陰に潜むは。




SIDE:unknown

彼の使命は、麗しき生徒会長を見守ることであった。

行事が近付けば生徒会室に篭りきりになってしまうので、最近はあまり姿を見ることはなかったけれど、時折寮のエントランスや昇降口、生徒会室のある碌鳴館の傍で他を隔絶した美貌を見かけることがあり、募る想いをどうにかやり過ごしていた。

中等部の頃からの穂積だけを見つめ続け、穂積のことを慕って来た彼にとって、穂積 真昼と言う存在は絶対であり、また恐れ多いと知りながらも手に入れたいと願わずにはいられない人物である。

さて、三日ほど前からその完璧なる容姿を誇った男を見かけていなかった彼に、一通のメールが入った。

自分のシンパである者からのそれを、興味もなく開いた彼は、しかし表情を一変させた。

具合が悪いと教師に告げ、退屈な物理の授業を抜け出し向かったのは、校舎から大分離れた弓道場だ。

メールの文面には、穂積がここに向かったと言う情報が記されていたのである。

碌鳴学院に弓道部はない。

ではなぜ、広大とは言え学院の敷地の一角を、占領しているのか。

この道場は、穂積が自分のためだけに学院に設けた個人施設なのだ。

立ち入ることを許されているのは、生徒会メンバーくらいで、一般生徒が踏み入れば退学処分にされても文句は言えなかった。

以前、穂積を追って入り込もうとしたが、あっさりと見つかり低い恫喝と共に自室謹慎を言い渡された。

冷徹な声音で言い放つ穂積もまた素敵ではあったけれど、出来れば将来の問題もあるので、これ以上の処分は遠慮したい。
彼はこっそりと細心の注意を払って、木の陰に身を潜めつつ道場の様子を覗き見た。

「なっ……!」

思わず出てしまった声に、慌てて口を押さえるが、しかし身を穿った衝撃は一向に治まらない。

ただでさえ大きな瞳を限界まで見開き、一点を凝視した。

彼の視界に飛び込んで来たのは、有り得ないビジョン。

まさか、そんなはずはないと目を擦ってみても、瞬きを繰り返してみても。

提示された現実は微細な変化も起こしてはくれなかった。

ボサボサの黒髪、冴えない黒縁眼鏡。

転校初日に穂積に醤油瓶を投げつけ、先のサバイバルゲームでは、穂積の恩情に仇で返した不届き者。

彼の中の抹殺者リスト最上位の少年が、そこにはいたのだ。

さも当たり前のような顔をして、神聖なる穂積の道場に。

まさか勝手に侵入したのか。

瞬時に浮かんだ仮説に、何て厚顔で非常識な奴だと怒りが湧く。

引き摺り出すため出て行こうとした彼は、けれど動きかけた足を寸でのところで止めた。

制服姿の穂積が、道場に現れたのである。

生徒会長は転校生がいることを知っていたのか、咎める素振り一つ見せない。

つまるところ、長谷川は穂積に道場に入ることを許されたのだ。




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