信じがたい出来事に、全身が強張る。

無意識に、光の右手はシャツの胸元を握り締めていた。

心臓が、痛い。

そんなこちら側に背を向けている男は、更になる衝撃を少年に落とす。

「おい、ゴミ虫」
「……俺の名前、覚えられないんですか?」

必死の思いで、どうにか落ち着いた声を返した。

「黙れ。……お前、七夕祭りの相手決まってないだろ」
「まぁ」
「なら俺と組むか」
「はぁ……って、はいっ!?」

なんだ、なんだ、どういう展開だ。

こちらを見ない穂積のせいで、彼が何を考えているのか表情から読むことも出来ない。

いや、仮に顔を見れたとして、果たして先ほどからキャラ違いな言動を取り続けている男の思惑を、読めたかどうかは怪しい。

それでも、少しくらいの手がかりにはなったはずだ。

ちょっとでいい。

一度でいいから、こちらを向け。

だが少年の願い虚しく、穂積は道場から降りるや歩き出す。

「申請は俺の方で処理しといてやる、ペアが決まってよかったな」

何て。

光の返事も聞かず、決定事項としてのたまう。

駄目だ。

声が出ない。

そうこうしていれば、あっという間に男の姿は木陰に消えて、光の視界から消え失せてしまった。

一人残された少年は、無人の空間で呟く。

「弓道衣の魔法……切れてないじゃん」

呆然とした面持ちで。

混乱と驚愕に支配されたまま。

気付いていないのは。

僅かな喜びだった。




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