穂積は疲れたように嘆息した。

「なんですか……?」

その含みを持たせた姿に小首を傾げる。

彼は新しい弓を手にしながら、さらりと言ってのけた。

「妙な顔しているな、と思っただけだ」
「生まれつきです」

聞いて損した気分だ。

ビジュアルが劣っていることなど今更だろうに。

しかし、彼はこちらの無知を笑うように頬を緩めたのだ。

「意味が違う。何かあったかと言ってるんだ」
「……っ」

少年の細い肩がビクリと跳ねた。

正直過ぎる反応。

これでは肯定しているようなものではないか。

隠すことも出来なかった脆い自分に、舌打ちを堪えた。

居た堪れない想いが胸中から溢れ出し、爪の痕がしっかりと刻まれてしまった掌を握り込む。

「聞いてやらないけどな」

だが、光に寄越されたのは思いやるような言葉でもなければ、慰めのものでもない。

悩む少年を面白がるような色しか見当たらない、軽いフレーズ。

ならばわざわざ痛い場所を突いてくるな。

黙って見逃してくれればいいものを。

「別に、聞いて欲しいとか言ってないし」

全身から不機嫌オーラを醸し出す光を鼻で笑った男は、こちらから興味を失ったのか、再び弓に矢を番える。

長い足が動き、乗馬袴の裾が微かに揺れた。

一連の流れるような動作は、実に流麗であるも筋が通って美しい。

弓掛に覆われた男の右手が、矢羽を真っ直ぐに引いていく。

気が付けば、静けさに満ちた空気に息を潜め、彼の姿を見つめていた。

涼しげな黒曜石の双眸が、すぅっと細まる。

あ。

そう思ったのと、穂積が弓を放ったのはほぼ同時。

揺らぐことなく直線を裂いて行った一本の心は、今度こそ的の中央に身を留めた。

「……」

拍手だってしてしまいそうな腕前だ。

相手が魔王であることなど関係なしに、賞賛の声を上げたい。

けれど、光の喉は込み上げる感情に蓋をされて、一音さえも発することは叶わなかった。

たった今目にした光景が網膜から離れず、呆然と立ち尽くす。




- 100 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -