始業を告げるチャイムは大分前に鳴った。

転校初日で崩れた自分の真面目説だが、やはり頻繁にサボるのは不味い。

下手に教師に目を付けられても調査がやりにくいし、出来る限り多くの生徒と関わる場所にいた方が、インサニティの情報が入ってくる可能性が上昇するからだ。

今すぐ体育館に駆けていって、途中からでも授業に参加すべきだと分かっている。

分かっているのに。

彼の足はただ闇雲に歩み続け、学院の広大な敷地を当てもなく彷徨っていた。

山一つという常識外れな規模を持つ碌鳴だったが、光が生活するスペースは校舎から寮までの極一部の範囲。

ぼんやりと焦点が怪しい目で周囲を見渡し、初めて足を向けた場所だと気付く。

それでも、事前に叩き込んだ学院の地図のおかげで、自分が今どの辺りを徘徊しているのかは理解していた。

ちらりと目を逸らせば、予想通り運動部専用のクラブハウスが見える。

更に行けば、広々としたテニス場や人工芝のフィールド、馬場などがあったはず。

何を思うでもなく二次元の見取り図を思い出した光は、それらとは逆の方向へと歩いた。


『友達に避けられたら、誰だって悲しいよ?』


歌音の声が、幾度となくリフレインする脳内。

身体の脇にある細い手が、ぎゅっと握り締められる。


『長谷川くんは、きっともう、アッキーのことを友達だと思っているから、悲しくなるんじゃないかな』


優しく諭す穏やかな音色。

思い出すのは決して不快ではない綺麗なものなのに。

どこまでも否定したくなる。

『友達』

身内いっぱいを支配する二文字に、光は弱々しく首を振った。

自分が仁志を友達だと思っているって?

そんなはずはないじゃないか。

彼は売人候補、自分は調査員。

姿も名前も過去すら偽って、あの面倒見のいい不良を疑いの眼で見てきただけだ。

今更、何が『友達』だ。




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