向かい合う想い、与えられた言葉。




「それより、長谷川くんの方こそどうしたの?」
「え?」
「浮かない顔してる」

呆然と見蕩れていた光は、突然の指摘に無防備な面を正直に険しくさせてしまった。

慌てて能面を取り繕うとするが、歌音の大きな瞳に見据えられて失敗する。

心の奥深い場所をやんわりと覗き込むような眼差し。

決して強引ではないそれに、戸惑いを隠せない。

「別に……何も……」
「僕の勘違いならいいんだ。でも、眉間にシワが出来ちゃってる」
「……」
「長谷川くん?」

彼の声は魔法のようだった。

するりと柔らかく入り込み、そっと扉を開けたくなる。

黙り切ることが無意味に思えた。

「その、すっごい下らないんです」
「うん」
「原因は俺にあるし、避けられて当然なんです」
「うん」

とつとつと語りだせば、もう止めることは出来ない。

誰かに話したくても、誰にも話せなかったから。

ここでの会話相手なんて仁志くらいだったし、保護者に心配をかけてしまうことを承知で話すなんて、光には不可能だった。

たった一人、相談も出来ず抱えているしかなかった混乱を、唇に乗せた。

「仁志に、避けられてて……俺、ちょっと悲しいみたいなんです。俺が悪いのに、悲しいんです。変……ですよね」

地面に向かって落ちている両の手が、ぎゅっと握り締められる。

俯かせた顔が弱々しく笑う。

随分と一方的な感情を打ち明けるのは、とても勇気のいることだと、光は初めて知った。

「まだ会ったばかりで、別にどう思われても関係ないはずなのに……悲しいなんて、変だ」

自分は調査対象として仁志の傍にいた。

彼を疑い、妙なところはないかと気を配った。

あくまで仁志は売人候補で、必要なのはアタリかハズレかと言う結果だけ。

だから、嫌われようと疎まれようと、監視さえ出来ればよかったのに。

何故、こんなにも悲しい気持ちになるのだろう。

今までは上手く行っていた。

厄介な寂しさなど生まれたことなどなかった。

ターゲットへの心象はいい方が調査は楽だが、だからと言ってこちらが心を波立たせるような事態はなかったのだ。

なのになぜ、今回に限って。

口を引き結んだ光に、歌音の滑らかな音色が鼓膜を振るわせた。




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