「な?俺とペア組もうって」
「先輩、僕……ずっと前から先輩のこと……」
「七夕祭り、君と一緒に過ごしたいんだ」

そここで飛び交う甘い台詞たちに、光は冷房の効いた部屋でも暑苦しい前髪に隠された、端整な面を険しくさせた。

今月のイベントにまつわる学院のジンクスは、女子高校生さながら恋の話で盛り上がる生徒たちの会話から流れて来た。

所謂盗み聞きと言うやつだが、あれだけ大きな声できゃいきゃい話されれば、嫌でも耳に入る。

内容としてはありがちなもので、七夕祭りで無事に出会えたペアは、その後も末永く幸せでいられるとのこと。

「男同士で何やってんだよ……」

いくら特殊な性嗜好で固められた碌鳴でも、明らかに無茶なジンクスだ。

性別の概念はどこに消えたのだろうかと、やや遠い目になる。

救いなのは、冴えない格好をしているせいで、誰も光に告白をして来ないことか。

悪意ならばたっぷり頂いているけれど。

体育の授業のため着替えた光は、体育館に向かうため一人廊下を歩いていた。

仁志は行事が迫っているとかで、登校してからすぐに生徒会室へと消えた。

仕事の多い役職なのだと分かっているし、時期を考えれば不自然なことではない。

それでも、光と距離を置きたいと思っているのだと、気付かずにはいられなかった。

重苦しいため息が、人気のなくなった廊下に零れ落ちる。

体育館に行くには、教室のある東棟の二階以降に繋がる連絡通路を使うか、一階まで降りて向かう方法がある。

外の熱気を避けるため、生徒のほとんどは連絡通路を渡るのだが、光の足は自然と一階の階段を下り、日差し降り注ぐ屋外へと出ていた。

今は煩わしい喧騒から、少しでも逃げていたかったのだ。

カラリと気持ちいい暑さが、Tシャツから出た腕を焼く。

直視することの出来ない太陽を見上げて、光はふと立ち尽くした。

「何やってんだよ、俺……」

転校して来てから、インサニティに関する情報は少しも収集出来ていない。

学院で孤立してしまった光が、自由に調査を進められるはずもなく。

本来の目的を達成するどころか、有力な手がかり一つ見つけられない現状に、歯痒さが募った。

けれど、それ以上に少年の心を曇らせるものがある。

仁志だ。

売人候補であろうとなかろうと、彼に避けられている今この瞬間が、光の身内を占拠する。

元のように、軽口を言ったり他愛のない話をしたり。

屈託なく笑える関係が、ひどく恋しい。

本当に何をやっているんだと、自分自身に辟易しそうだ。

自分は調査のために、彼と行動を共にしていたのではないか。

彼の側から用意してくれた『友人』という椅子に座って、何か怪しいところはないかと、目を光らせていたではないか。

それなのに。

今になって苦しいだなんて。

苦しい?

光はポンッと現れた感情に呆然として。

それから、微かに聞こえた物音にハッと我に返った。




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