シェヘラザートの恋物語。




白銀の三日月が雲に隠れることなく、優美な姿を露わにした夜。

常ならばその玲瓏とした輝きに、誰もが魅せられ月見酒などを楽しむはずが、この日は人々の視線は遥か上空ではなく地上にあった。

蝶のように虚空を舞う紗が幻想的に翻る。

操るは妖美な艶を帯びた、しなやかな白い手指。

ふうわりと弧を描く絹織物を絡め取りつつ、紫の薄絹に包まれた伸びやかな四肢を柔らかに動かし、見事な舞踏を披露する。

四方から注ぐ熱い灯りに照らされて、踊り手の薄茶の髪は金色に蕩け神秘的ですらあった。

左の足首の銀環についたいくつもの鈴が、涼やかな音色を一層高く響かせたとき、舞台上にたった一人の存在は、流れていた曲と揃えたようにぴたりと動きを停止させた。

髪と揃いの色をした挑発的な誘いの瞳は、己の魅力に絶大の自信を有していることがよく分かる。

白皙の面をはっきりと客席に向け、紗をしどけなく肩から腕に垂れ下げる様は、すでに踊り手が少年であることを忘れた観客の目には、傾国の美姫に映ったことだろう。

最初の拍手が強く打ち鳴らされるや、人々は魔法が解けたかのように我に返り、一斉に喝采を送った。

踊り手はそこでようやく最後のポーズを崩し、片膝をついて頭を下げる。

ピューと口笛の音が混じる中、舞台脇で楽器を演奏していた男が、歓声に負けぬよう声を張り上げた。

「いかがでしたでしょう!我が「シェヘラザード」一の踊り子、千影が披露しますは「七宵御伽」!四日目の明日の夜も、皆様の瞳に物語の続きが映ることを願って、一座一同お待ち申し上げますっ」




- 2 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -