どうして民間人であるはずの彼が、国家権力に対し絶対的な上位者の命令を下せるというのか。

どうして彼の周りには、何人もの兵士が護衛のように立っているのか。

これが彼の私兵団だと言うのならば話は簡単だ。

多くの部下を抱えている素振りもあったし、滸が度々仕事の話をしに来ていたこともあったから、やり手の商人か何かだとは思っていた。

けれど、青い制服の男たちは「国家保安局」と名乗った。

富裕層に属す平民が金で雇った私兵などではなく、国の名の下に設立された法の剣であると。

そう言ったのだ。

「……よく、ここが分かったな」

本当に問いかけたい言葉とは、まったく関係のない台詞は、少しばかり掠れていた。

「一座の男に、お前を外で見かけたと聞いて、後を追ったつもりだった。実際には嘘だったが……そいつを問い詰めて霜月が裏で糸を引いていると分かった」

振り返りはしないから、彼が今、どんな顔しているかは分からない。

ただ語られる事のあらましからは、強い後悔と自責の気配が感じ取れる。

「霜月が出入りしている組織が、今夜違法オークションを行うことはすでに把握していたから、お前も出品されている恐れがあると判断したんだ」
「なんで……」
「……」
「なんでそんな情報知ってたんだよ。なんで保安局が出て来るんだよ」
「……」

与えられぬ返答に焦れて、ついに千影は彼へと顔を向けた。

立っているのは、予想通りの男。

夜よりも深い闇色の髪、極彩色の煌めきを見せる鮮やかな黒眼、あるべきものがあるべき場所に完璧な形で配された美しい人。

名を、真昼。

「役人、だったんですか?」

硬い表情でこちらを見下ろす彼に向って、胸の内側に生まれた疑問符を、問いかけた。

「違う」

簡潔な否定を受け入れるには、状況が出来過ぎている。

今更、嘘などつかなくて構わないのに。

真っ直ぐな視線に首を振る。

「別に責めているわけじゃないんです。そうじゃなくって、貴方が役人だったのなら、どうして正体を隠していたのかとか、どうして俺の護衛なんてやってくれたのかとか」

偽りや黙秘などは求めていない。

ただ知りたいだけ。

貴方のことを知りたいだけ。

だから教えて。

貴方の口から、貴方の声で。

「貴方は、何者なんですか?」

真実を。

自分でも驚くほどに必死な様子で彼の瞳を覗き込む。

ドクンドクンと耳触りな脈拍が、少年の内心を物語る。

焦がれているのだと、希求しているのだと。

こちらの気迫を受け取った男の唇が、ゆっくりと動くのを見ていた。

「俺は、この国を統べる者」
「え?」
「俺の名は、穂積 真昼。第三十一代目、国王だ」
「……え!?」

言われた言葉をすぐには理解できず、間抜けな表情になった千影を見下ろす男は、どこか寂しげな微笑みを浮かべているようにも見えた。




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