果たして誰の疑問符であったか。

神楽の心境と合致した問いに、碧の笑みが深くなる。

「首謀者も、実行犯も、協力者も――黒幕も、全員」
「なっ!」
「全員が死ねば、面倒事はまとめて消える。軍も世論も貴族も平民も、元凶がなくなっちまえばどうすることも出来ないんだからなぁ。これが、一番いい手だろ」

僅かな欠片すら残さず葬り去れば、真相を知る術は絶たれる。

例え誰であろうと、事件の解明も犯人を処断することも出来ない。

そして神楽も、鳳来と取引をする必要がなくなるのだ。

黒幕である彼は、消えてしまうのだから。

「……とんだ暴論だね。脅迫っていうのは、実現可能な脅威を示さなければ成立しないものだよ」

正気とは思えぬ発言に凍りついた室内に、やがて鳳来の冷静な声が響いた。

だが、その表情はどこか引きつっている。

碧は嘲るように言った。

「可能だろ」

今、すぐにでも。

神楽は自らの血が凍えるのが分かった。

氷の手で首根を掴まれたが如く、全身から体温が消失する。

地位や身分、倫理観や道徳心。世界を縛る数多の理は、碧にとって無に等しい。

世を形作る枠組みを、彼は容易く逸脱できる。

事件関係者全員の抹殺は、誇張した脅し文句などではなく、実現可能な手段なのだ。

自分が従える男は、これほど危うい存在であったのか。

圧倒的な殺気を纏いながら嘲笑を浮かべる姿に、瞬きも忘れて見入っていた。

停止した思考回路を再稼働させたのは、完全に余裕の消えた鳳来の忌々しげな声である。

「……随分と物騒なのを飼ってるね、神楽」

彼は吐き捨てるように言いながら、ふいと顔を背けて床を睨みつけた。

不快なものを見たとでも言うように、優美な曲線を描いていた眉がきつく寄せられている。

「例の士官は好きにすればいい。暇つぶしで狂人に殺されるなんて、つまらない」

心底気分を害した様子で、シッシッと犬を追い払うジェスチャーをされる。

過去、一度として見たことのない鳳来に内心で驚きながら、神楽はどうにか唇を動かした。

「寛大なお心に感謝します。では、会議がありますのでこれで失礼致します」

今度こそ踵を返し、扉が外れて枠が残るだけのところを潜る。

背後から着いて来る気配を感じながら、真っ直ぐに昇降機へと進んだ。




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