衝撃に負けた身体が背後に仰け反り倒れ行く。

その視界に映ったのは、再び炎に包まれた刺客と、開け放たれたままの扉から凝然とこちらを見つめる長身の男。

見開かれた翡翠の眼を理解したときには、神楽の身体は逞しい腕に抱き留められていた。

「……瞬間移動でも使えるんですか、碧中将」
「黙ってろ」
「なぜ、ここに。持ち場は、どうしたんです」
「黙れ」

いつになく真面目な表情に、碧の真剣を察して思わず口を閉ざす。

途端に、腹部に激痛が走り喉の奥で小さな音が鳴った。

焼けつくような痛みに汗が噴き出る。浅い傷とは言えないようだ。

だが、神楽は歪みかけた頬を無理やり戻して、立ち上がろうとした。

持参した止血剤と痛み止めで、対処できる範囲と結論づけたのである。

それを押し留めたのは、背中を支える碧の腕だった。

ひざ裏にもう一方の手を差し込まれ、抱き上げられる。

神楽は痛みも忘れて抗議の声を上げた。

「何のつもりです、下ろしてくださいっ」
「火澄、そっちはもういいだろ。こいつを医療班に連れて行く」

碧は神楽の主張を聞き流すと、刺客を取り押さえる火澄へと声をかけた。

猿轡を噛ませて自害を防ぐと、彼は刺客の腰を革靴の底で踏みつけながら、こちらを振り返った。

「今他の士官を呼んだから、僕は一人で平気だよ。生け捕りが難しかっただけだしね」

抹殺するだけならば、火澄一人で事足りた。

生かしたまま捕縛するために、神楽のサポートが必要だったのだ。

上官の許可を得るや、碧は神楽の抵抗に構うことなく歩き出した。

「この程度の怪我は、自分で対処できます。医療班にかかるほどではありません」
「どの程度の傷か、俺が分からないと思ってんのか」
「この程度の傷と、私が判断できないと思っていらっしゃるんですか」

言葉を真似て返したのは、わざと。

軽口を叩く余裕があると示すつもりで、神楽は口端を持ち上げて見せた。

だが、碧の足は止まらない。

医療班の待機する城外を目指して、通路を進み続ける。

こちらの言い分に耳を貸すつもりがないのだと気付いて、神楽は胸裏の苛立ちを露わにした。

「今すぐ私を下ろしてください。ことは士官の負傷というだけの話ではないんです」

刺客が捕縛されたことで、間もなく城内は騒がしくなるだろう。

近衛兵が火澄の元へ駆けつけ、無傷で国王を護った彼に軍の力を痛感させられるはずだ。

そのとき、大将と共に護衛についた神楽がいないのは、非常にまずい。

少将が負傷したと知られては、国王サイドに与えるプレッシャーが俄かに弱まってしまう。

「あの部屋の警護は、火澄様と私の担当です。私の不在は、彼らを付け上がらせることになりかねません。ですから、すぐに――」
「それがどうした」

切実な訴えは、いとも簡単に撥ね退けられた。

軍に所属する人間とは思えぬ発言に、唖然となる。




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