「中将でしたら、すでに所定の位置に着いていらっしゃいます」
「正門だっけ?」
「はい。侵入経路としては最も可能性が低いですが、敵への牽制にはなります」
「もう一種のブランドだよね、碧ってさ。イルビナ最強が護衛してますよーって」

茶化す火澄に、神楽は小さく微笑みを返した。

ブランドでなければ困る。

真実、イルビナ最強かどうかは兎も角、彼の戦闘能力がずば抜けていることは間違いない。

国内外問わず、広く認知された碧の驚異的な強さは、反抗勢力に対する抑止力となり得る。

クーデター時の負傷でその力が弱まってしまっただけに、彼の強さをアピールする場は重要だった。

「囮とパフォーマンスを兼ねて、何人かは来るでしょう。中将には派手に暴れて頂くよう、お願いしてあります」
「周到だね。じゃあ、本命はどこからかな」
「西棟二階端のゲストルームかと。あそこならテラスからギリギリ屋根に移れますし、この部屋への到達もさほど難しくありません」

神楽は迷うことなく答えた。

ある程度のデータがあれば、刺客の侵入経路を予想するくらい造作もない。

「刺客の腕が一流ならね。で、ちなみにその辺りの警備は?」
「近衛兵団にごねられたので、任せました」

神楽は笑みを深めて告げた。

上流貴族の多い近衛兵は、総じてプライドが高い。

軍に護衛を要請しておきながら、士官のほとんどを一階や城外といった無意味なエリアの警備に振り分けた。

将校である神楽たちですら、国王の傍ではなく次の間の担当だ。

「なるほど、じゃあ刺客はここまで来るね」
「そうなるでしょう。一応、進言したのですが、彼らの耳には届かなかったようで。西棟二階はザルもいいところです」

火澄は華の顔を綻ばせ、楽しそうに喉を鳴らした。

近衛兵たちの反発を計算して、神楽が進言したと気付いたのだろう。

「相変わらず、有能だね」と小さく零す。

イルビナの権力構図は、長きに渡り軍の圧倒的優位が続いていた。

だが、国王が元帥となったことで、そのパワーバランスに変化の兆しが現れつつある。

王家が力を得る前に国王サイドへ恩を売り、揺れる天秤を再び軍の側へ傾けるつもりだった。

「せいぜい頑張ってもらわないとね」

刺客に、と声を出さずに火澄が言ったときである。

耳に着けた通信機へ連絡が入った。

『こちら正門、侵入者五名を確認。応戦します』
「一人は必ず生きたまま捕縛してね」
『了解』

簡潔な返事で通信は終了した。

いよいよ来たらしい。

今頃、正門はジェノサイド・ランスの独壇場だろう。

そして西棟二階では、手練れの刺客が近衛兵の警備を潜り抜けているに違いない。




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