この世界には四つの大陸が存在する。

一大陸一国家支配体制が確立したのは、歴史的に見ればそう古いことではない。

ダブリアのダビデ内乱を始め、各国各地では未だ内乱問題を抱えている。

それは西の軍事国家イルビナに置いても同様。

第二支部のある南方では、長らく先住民との対立が続いており、北方では旧王家の血統が政権の奪取を狙っている。

特に旧王家の動きは活発で、国王や四代貴族筆頭である苑麗家当主の首を狙い、定期的に刺客を放つほどだ。

政治的な駆け引きに力を入れられるより、ずっとマシだよね。

そう言って笑う上官に、神楽=翔庵はため息をついた。

「陛下が標的となっては、同意しかねます」
「僕なら狙われてもいいってこと?」
「えぇ、その通りです。火澄様なら、ご自分で対処できるでしょう」

躊躇うことなく、きっぱりと言い切る。

他の者が聞けば不敬と言われそうだが、この場にいるのは自分たち二人だけ。

誰に気兼ねすることなく、本音を口にした。

「余計な仕事を増やされて、マシだとは言えません」

迷惑極まりないとばかりに、神楽は背後の扉を振り返った。

古イルビナ様式特有の繊細なレリーフがあしらわれた扉は、国王の私室へと続いている。

中には国王とそれを守護する王室直属の近衛兵がいるはずだ。

ここはレッセンブルグより一刻ほど西に進んだ先に建つ、国王の居城。

首都の王城は対外的なものに過ぎず、実際に王が住まうのはこちらになる。

本来、総本部にいるはずの神楽たちが、なぜ王の元にいるのか。

すべては旧王家による国王暗殺計画がためであった。

「せめて火澄様だけでも、総本部に残ることが出来ればいいのですが」
「そうだね。僕らが揃って抜けるのは問題かな」

王族の警護は基本的に近衛兵団に一任されており、軍の管轄外だ。

公の式典でない限り、神楽たちが護衛に駆り出されることはあり得ない。

だが、現国王が元帥に就任したとなれば、話は変わってくる。

クーデターの混乱を治めた後、火澄は元帥位を退いたのである。

「父さんのことで、苑麗家に以前ほどの力はない。そんな中で、また苑麗家当主の僕が元帥に収まり続けたら、貴族も民も納得しないからね」
「陛下に元帥となって頂くのは、最善の策でしょう」

王家は実権を失って久しい。

ただ在るだけの国王ほど、仮初の元帥に据えるに相応しい存在はない。

例えこうして、護衛を命じられたとしても。

「ところで、碧は?」

際どい話題を切り上げると、火澄はハニーブロンドの髪を揺らしながら小首を傾げた。




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