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さっさと消えて欲しいのに。
仕方ないと、顔を上げた。
「体調が悪いのか?」
「いえ、ご心配な……」
「顔色が悪いな。昨日寝なかったのか、衣織」
こちらを見下ろしていたのは、衣織がこれまで一回しか会ったことのない美しい男だった。
「雪……」
「なんだ」
「なんで……」
「何が」
「だって、来年会いに来いって、俺、言った……」
「あぁ、言ったな」
「一年間違えてるよ、あんた」
「間違えてない」
雪が、ふわりと笑った。
冷たい印象さえ覚える面が、ぬくもりを持つ。
「来年のクリスマスにも会うが、その前に会ってはならないルールはないからな」
手を伸ばせば、彼の方から抱き締めてくれた。
初めての抱擁は、おかしなくらい心地よかった。
「一年も待てない」
「ははっ、俺のクリスマスプレゼントは、あんたかよ」
耳元の囁きはどこか満ち足りた香りがして、衣織は笑顔が溢れるのを止められなかった。
Fin.
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