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「―――りさん、衣織さん、起きてください」
「ん……んん?」
「目、覚めました?休憩時間終わってますよ」
「ってうわ、店長っ!?」
ガバッと勢いよく身を起こした少年に、眼鏡をかけた繊細な容貌の男が苦笑する。
見慣れた鬼店長の珍しい反応に、衣織は混乱しかけた。
ここは、どこだ。
そりは?空は?
サンタクロースは?
口に出さなかったのは、急速に現実を飲み込んでいたからだった。
今更周りを見回さなくても、自分がいる場所が、バイト先のスタッフルームであることは分かった。
「寝不足だったんですか?よく寝てましたね」
「……すいません。ちょっと意識飛んでました」
「体調悪いんじゃないですか。顔色がよくありませんよ」
「いや、問題ないです。出ます」
携帯電話で時刻を確認するついでに、日付を見る。
今日は12月25日だ。
子供たちがプレゼントの包みを開く日。
いつの間に一日が過ぎたのだろうか。
曖昧な記憶は、掘り返せば思いのほか簡単に蘇った。
その中には、昨日のバイトをしっかりとこなした記憶も含まれている。
これまで見たことのないような綺麗な男と、夜空を白いトナカイの引く白いそりに乗って走った記憶は、どこにも介在する隙間がない。
でも、覚えている。
あれが夢だったとは思わない。
夢だと思うのが普通かもしれないし、これまでの衣織なら即座にファンシーな夢だと片付けたはずだ。
だけど、夢だと思ってしまったら、現実ではないと否定してしまったら、奇跡の種は育たない。
衣織は決めた。
あの男に言った。
信じると。
彼にもう一度会うと、会いに来いと言った。
もし来年のクリスマス、彼が約束通り会いに来てくれても、自分が信じていなければ、きっと会えない。
彼の頭を、二度と叩けない。
そんなのは嫌だ。
悲しませたくない。
嘘はつきたくない。
雪に、また会いたいから。
衣織は、サンタクロースを信じる。
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