「誰かに気付いてもらわなければ、こちらが何かを贈っても、それは効果を示しにくくなる。サンタクロースを信じるというのは、クリスマスの奇跡を信じるのと同義だからな」
「……」
「お前が気付いてくれてよかった。あのまま、誰にも存在を確認されなければ、俺の贈り物も上手く行かなかったかもしれない」
「……俺、サンタ信じてないけど」
「それでも、俺に声をかけられたんだ。サンタクロースを信じていなくとも、クリスマスの奇跡は信じていたんだろう」

どうだろう。

奇跡なんて、そんな曖昧で不確かなものを、自分は信じられるほど夢見心地な人間だろうか。

信じられるほど、素直な人間だろうか。

でも、彼の頭を殴れたのだから、雪の言う通りなのかもしれないと思った。

「サンタも、大変なんだな」
「実害はないが……無駄になると分かって贈るのは、きついものがあるな」

何度贈ろうと、どれだけ贈ろうと、奇跡の種を花開くまで育てるのは、受け取り手なのだ。

サンタクロースも奇跡も信じていないならば、種はそのまま芽吹かず終わる。

誰も、受け取っていないのと同じ。

なんて、悲しくて、虚しいことか。

心臓が痛んだ。

「衣織」
「ん?」
「気付いてくれて、救われた」
「……あんたの頭、はたいてよかった」

整い過ぎた面がふわりと緩んで微笑むから、衣織は寒さとは別の要因から頬を染めて、茶化すしかない。

「さっきも聞いたが、今年のクリスマス、お前は何が欲しい?」
「プレゼント?」
「あぁ」

もし、雪の話を聞かなかったら、衣織は「現金」と答えていたと自己分析をする。

友人に借りていた二千円と、来月分の家賃。

実に俗物だが、とても建設的だ。

けれど今はもう、聞いてしまったから。

サンタクロースの、幻想的でいて現実的な、幸せで孤独な事情を聞いてしまったから。

衣織はにっと笑った。

「来年も、あんたに会える約束が欲しい」
「なに?」

うっかり手綱を引いてしまったのか、そりが夜空に停止した。

トナカイの赤い鼻が輝いている。

こちらをまじまじと見つめて来る男が、少しおかしい。

「俺は、あんたの存在を信じるよ。サンタクロースにこうして会ったわけだし、サンタのことも、クリスマスの奇跡も信じる。だから、来年もあんたは俺に会いに来いよ」
「衣織……」
「サンタは、目に見えないものだって、プレゼントしてくれるんだろ?」

もう一度、笑う。

雪は。

笑おうとしたのか、困った顔になったのか、それとも。

泣きそうだったのか。

眉尻を下げて、でも唇は弧を描いて。

「わかった」と言い。

それから、ゆっくりと顔を近づけて、衣織に触れるだけのキスを贈った。




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