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高校生にもなれば、サンタクロースが大人の自己満足と、子供の欲求との利害関係が一致したことで生じる産物だと分かるが、出来れば空想には綺麗なままでいて欲しいものだ。
衣織もまた、大人になりかけているからこそ、「子供」の純粋さを汚したくないと思うのだろう。
「あれ?つーか、サンタクロースって本当にいたんだ」
「……」
つい考え付いたまま音にすれば、当のサンタクロースはむすっとなった。
恐らく本物のサンタである彼には、とんだ侮辱かもしれない。
「だ、だってさ。あれだろ?プレゼントって、親が用意してたりするって言うじゃん」
美形が不機嫌になると、それだけで迫力がある。
慌てて言い繕う。
「……童話による偏見だ」
「なにが?」
「サンタクロースの贈り物が、物品であるというのは、それこそお前たちの決めた勝手なルールだ」
オモチャ会社の策謀のことか?と思うが、今度は黙ったままでいた。
「俺たちが贈るのは、品物だけではない。目に見えないもの……お前たちが「クリスマスの奇跡」と称するものも、サンタクロースからのプレゼントだ」
例えば、聖夜に降る雪。
例えば、偶然見つけた恋の種。
例えば、食卓を囲むばらばらだった家族。
どれもこれも、誰かからの贈り物だとは気付かないようなもの。
目に見えない、形に残らない、不可思議な魔法みたいな贈り物だ。
「……」
「品物を贈ることは、自分たちで出来る。サンタクロースの役目は、お前たちには少しだけ難しいことを叶えられるよう、些細な奇跡を贈ることだ」
手綱を手繰りながら、雪は静かに言った。
眩い地上の星が、賑やかに幸せを謳う。
衣織はその人工的で、けれどあたたかい光をただ眺めた。
「しかし、それももう厳しくなったな」
「どういう意味だよ」
微かに翳った男の声に、ふと目を向ける。
サンタは前を見たまま。
「サンタクロースの存在は、信じる心によって成り立つ。存在はしているが、信じる人間がいなければ、誰の目に留まることも出来ない。誰にも気付かれなければ、それは最早「存在」していないも同じだ」
「あ……」
はっとした。
人で満ちた街中で、それまで誰も雪に気付く人間はいなかった。
衣織が声をかけた後から、彼は周囲に騒がれていたではないか。
衣織が彼に気付いたから、彼に声をかけたから、雪は他の人間に存在を認識されたのだ。
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