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サンタの格好をしているというだけで早合点をして、スパンッと思い切りよく殴った。
腰を深く折って、頭を下げる。
「ほんと、すいませんでしたっ。勘違いだったんです」
他の店の人間だろうか。
この近辺の店は系列・ジャンル関係なく、横の繋がりをもっている。
何か問題が発生すれば、直接店に迷惑がかかってしまうと思えば、謝るしかない。
恐ろしいのは、年上の店長だ。
必至に謝り続ける衣織だったが、しばらくすると相手が何も反応を返してこないことに気付いた。
よっぽど怒っているのだろか。
そんな懸念が過ぎり、恐る恐る目だけを持ち上げ相手を窺った。
「……」
「あの?」
「……か」
「え?」
「お前、俺が見えるのか?」
え。
耳に心地よい低音を、聞き取る。
途端、少年は嫌な予感を覚えた。
「えーと、その、もう一回言ってもらえます?」
聞き間違えだと思いたい。
切実な懇願を、相手はあっさりと突っぱねた。
「お前は、俺が見えるんだな」
うわーお、疑問符が取れました。
見えるんだな、と断定の物言い。
深い深いため息が勝手にもれる。
今、この男はなんと言った?
俺が見えるのか?だと。
自分が間違えて殴ったのは、よりによって電波なやつだったとは運がないにもほどがある。
「えー、まぁー、俺以外にも見えてると思いますよ……」
直前までの平身低頭をどこかに捨てて、やや投げやりに返した。
こういう手合いは、対処に困る。
適当にいなして、そそくさと逃げるしかないだろうか。
「あぁ、そうだな。見えるようになっただろう」
「いやいや、「なった」っつーか、見えてたと思います」
「違う」
「はい?」
「お前のおかげで、他の人間にも俺が見えるようになった」
「……どんな設定ですか、それ」
なんだ、この電波。
周波数が違う人間は、自分ルールを独自に作っているから面倒臭い。
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