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「お兄さんたち、カラオケどうですか?」
ラキの指示に従って、にぃっこり営業スマイル。
自分の見てくれが悪くないと自覚しているから、見せ方も心得ている。
しかし悲しいかな。
男相手じゃ効果は半減だ。
一瞥すらせずに、素通りされる。
が、これしきのことでへこんでいては、カラオケ屋の呼び込みなどやってはいられない。
衣織はきょろきょろと忙しなく瞳を動かしながら、声をかけやすそうな若者を狙って、割引券だけでも配って行った。
冬の気温にかじかんだ指先で、器用に人数分まとめて押し付ける。
図ったようなタイミングを心がければ、うっかり受け取る人間も少なくない。
女子高校生の集団をキャッチさながら捕まえ、店舗へ案内し終えたところで、衣織はふと見慣れたサンタの衣装を見つけた。
ここいら近辺で季節に乗ったコスプレをしているのは、自分の務めるカラオケ店だけ。
きっとバイト仲間に違いない。
歩道の脇に誂えたベンチに、こちらに背中を向けて座っている。
先ほど自分が注意されたことも手伝って、衣織はそぅっとそのサンタ姿に足音を忍ばせ近付いた。
背をまるめて縮こまっているようにも見える相手に、若干同情しかけたが、それでも持ち上げた手は振り下ろした。
「っ!?」
「なーにサボってんだよ!」
前科などなかった調子で、後頭部を叩いてやった。
しかし。
「え?」
「……」
勢いよくこちらを振り返った相手の顔に、フリーズした。
これまで目にしたことのないほど、整った造作の顔。
白皙の面には高い鼻梁と薄い唇、切れ長の双眸が驚いたように見張られて、衣織を見上げている。
綺麗な円を描くその眼は金色で、暫時呼吸が止まりかけた。
カラーコンタクトのような安っぽさのない、厳粛で神秘的な色合いは、男のともすれば冷たく見える美貌にぴたりと当てはまっていた。
だが、もっとも重要なのは、彼の容姿の秀逸さではない。
繰り返すが、今見つめ合っている男は、衣織がこれまで目にしたことのないほど、整った造作の顔なのだ。
これまで目にしたこのないほど。
これまで、衣織がこの男を見たことは、ない。
「す、すいませんっ!てっきりバイトのやつかと……」
失敗した。
まさか、店の仲間ではなかったなんて。
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